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88話 迷子センターは嫌なの。

 写真を取り終わると、カメラマンのおじさんはニヤニヤ笑みを浮かべながら、俺と彩の足の間に挟まるように収まっている女の子のところまで来ると、腰を屈めて言った。


「ほら、お嬢ちゃん、いい感じに写真撮れただろ。すぐデータを印刷所の方まで送ったるから、そこのテントで受け取りな」


 おじさんはそう言うと立ち上がって、俺たちの方へと顔を向けた。


「それじゃ、家族みんなで仲良くな」


 おじさんがそう言い残して、次のカップルの方へと向かっていくと、ずっと端の方で縮こまっていた着ぐるみちゃんがトボトボした足取りで近づいて、テントの方を指さした。


「いや、分かるよ。世界観壊せないもんな」


 俺が着ぐるみの肩に手を当てながら、耳元でそう小さく言うと、やけに可愛らしい女の子の声が聞こえてきて。


「ご理解いただけて助かりますう~」


 ……いや、お前、女の子だったのかよ。

 彩にはバレないようにしよう。

 俺はそう誓うと、写真を受け取りにテントの方へと向かった。



 着ぐるみの中身が図らずも女の子だと言うことに気づいてしまった俺は、今までの色々からロクでもない予感を感じ取ると、なるべく着ぐるみちゃんには近づかないようにしながら、女の子の母親を探していた。


「なあ、やっぱり迷子センターに……」


 俺がそう言うと、子供はやはり耳が良いのか、聞きつけてきた女の子は俺に近づくと、言った。


「はな、お姉ちゃんと一緒にママを探したいの」


 女の子はそう言うと、プイッと俺から顔を背けると、彩の白いワンピースの裾を掴む。


「なあ、着ぐるみさん、こっそり、女の子の母親を呼び出してくれないか?」


 俺が二人から離れて、律儀にはなと名乗った女の子の母親を探すのに同行してくれている着ぐるみに耳打ちすると、着ぐるみは合点承知とでも言うように頷くと、てくてくと、遊園地の本部の方へと歩き始めた。

 俺は今度は彩の方へと近づくと、こっそりと耳打ちする。


「着ぐるみちゃんに母親を呼び出すように頼んだから悟られないように迷子センターの方向へ向かおう」


 俺がそう言うと、彩は例の悪戯な笑みを浮かべると。


「全く、傑は意地悪なんだから」


 そう、言った。

 ……意地悪なのは、あなたみたいな笑みを浮かべる人だと、俺は思います。



「お姉さん、あそこに、はなのママがいるように見えるの」


 途中、女の子の母親を呼び出す放送がかかったりもしたが、彩がすかさず同名の子のことじゃないかと誤魔化したのもあって、ご機嫌な女の子はまんまと迷子センターまで導かれていた。


「はな、ここで待ってるから、ママを呼び出して欲しいの。はなが迷子になったって周りの人に思われてしまうの」


 いや、紛うことなき迷子ですよね貴女と、俺は女の子相手にはなんとも意味のないツッコミをするのを必死に我慢すると、頬が引きつっているのを自覚しながら、仕方なしに女の子の母親を呼び出すために女の子と彩のもとを離れた。

 すると、女の子の母親がこちらに気づいたようで、数秒こちらをじっと見た。

 そして、次の瞬間、女性とは思えぬほどの俊足でこちらに駆け寄ってきて。


「こら、また迷子になってーーー!! 花!!!」


 女の子の頭を両手のげんこつで挟み込むとぐりぐりとした。


「ママ、痛いの! 許してなの!」


 少女がそういいながら、本当はあまり痛くないであろうげんこつに耐えること数秒後。

 俺たちの前には平謝りの女の子の母親の姿があった。

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