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87話 なぜか夫婦になってしまったのだが。

「るんるんるん!」


 確かに、この年頃の女の子はこうやって擬音を発しながら歩いてたりするイメージだなあとか、どうでもいい考え事をしながら、彩と手をつなぎながらご機嫌そうに歩く女の子を見ていると、彩が後ろに振りかぶって言った。


「傑、私、あなたの身元引受人にはならないわよ?」


 悪かったな犯罪者でよ。俺は心の中ではそうツッコミながらも決して返事するものかと無視を決め込んでいると、着ぐるみちゃんが手を振りながら、写真撮影用に設けられたステージに登るように合図する。

 すると、彩は女の子と手を離すと、仕方なしというように俺が来るのを待った。


「ほら、早く済ませてしまいましょ」


 俺がそんな彩のツンケンな態度に味気ないなあとか思いながら、彩の横に並んで立つと、遊園地に雇われたのかやけにガチプロみたいな機材を構えたカメラマンが両手の人指し指で俺たちにもっと近づくように合図した。


「近づけだとさ」


 俺がそう言うと、彩は少しだけ頬を赤らめながら答えた。


「仕方ないわね」


 彩はそう言うと、一歩俺に寄り添うように近づいた。

 彩は女子にしては高身長ではあるが、やはり少しは身長差はあるので、シャンプーのいい香りがふわりと鼻孔をくすぐった。

 すると、カメラマンは満足そうに頷くと、シャッターを切るよと合図を送ってきた。

 俺たちもその合図に従って身構えていると、カメラマンの動きを止める声がかかった。


「それじゃだめなの」


 その言葉にカメラマンが今気づいたというように女の子とその後ろでなにやら申し訳なさそうに縮こまる着ぐるみを見た。


「どうしたんだい? お嬢ちゃん?」


 カメラマンのおじさんがそう尋ねると、女の子は監督みたいな口調で言う。


「せっかくの写真なんだから、恋人繋ぎなの」


 そう言いながら自分自身で頷いている女の子を見て、カメラマンは思わずというように笑みを零すと俺と彩に声をかけた。


「随分とお若いので学生さんかと思いましたが、こんなに可愛いお子さんがいらっしゃったんですねえ、ほら、新婚の頃を思い出して手でも繋いでくだせえや」


 カメラマンのおじさんがそうニヤニヤしながらそう言うと、その視界の後ろから、必死に謝罪と思わしき全身運動をする着ぐるみちゃんが見えた。世界観を守るのは随分と大変そうで。

 俺がこの後の彩の反応を思ってそう現実逃避していると、俺の手の甲になにやら温かくて柔らかいものが当たるのに気がついた。


「ほら、仕方ないでしょ」


 可愛い。


「そ、そうだな」


 俺は、脳裏に浮かんだ言葉が思わず声に出てなかったかを確認するようにそう言いながら横目で彩を見ると、その手を握った。恋人つなぎなので肩と肩が触れて、首筋に彩の絹のような髪が当たってくすぐったい。

 俺はそのまま冷静を装いながら、カメラのレンズを見直した。


「準備はいいですかい?」


 カメラマンの言葉に俺は頷きながらも、頭の中は不服そうにしながらも、仕方ないなあといった表情で俺を上目遣いで見上げていた彩の表情を思い出していた。

 男の子は不意打ちにとことん弱いのだ。

 そんなことを思いながら、上がった体温に頭がのぼせたみたいになっていると、パシャリと音がして、カメラマンのおじさんがグッと親指を上げた。


「随分と初々しいですね。私も、新婚の頃を思い出しましたよ」


 おじさんがニヤニヤしながらそう言うと、横にいる女の子を見て、言った。


「どうだい? パパ・ママと一緒に写真取るか? サービスしたる」


 すると、女の子は大喜びで俺たちのもとへ走ってくると、俺と彩の間に収まった。


「はい、チーズ!」


 なぜか撮られる側の女の子がそう言うと、カメラマンはタイミングバッチリにシャッターを切った。

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