85話 泉の計らい
「それで、これは一体どういうことかしら?」
そう不機嫌そうな表情をしながら言うのは彩で、俺は全身から冷や汗をかきながら自分でも頼りない笑みだろうなと思うような表情を浮かべているだろう中、弱々しく答えた。
「えっと、今日はメタガラスの慰労会も兼ねて、こうやって遊園地に来てるわけだけど」
俺はそう言うが、そうであれば決定的におかしい事が起きているので彩はこうも不機嫌そうなのだろう。
事実、彩はスマホの画面を俺に見せながら言った。
「あずちゃんからは、私たちは私たちで楽しむから、彩ちゃんたちも久々に二人きりで楽しんでねと、きているんだけれど、これはあなたの計略かしら?」
そうですが、これは俺の計略ですか。計略と思うほど、俺と二人きりでいるのは嫌ですか。
俺は若干泣きそうになりながら、この計略の主であろう人物に電話をかけた。
すると、その人物も集合時間にしていたこの時間に電話がくるのを想定したのか、数コールで電話に出てきた。
「おい、泉」
何度同じセリフを言ってるんだ俺はという気持ちを抱きながらその何度言ったかも分からないセリフを電話越しに伝えた。
彩も内容が気になるのか、まだ朝早くで周りの人もまばらな様子を確認すると、俺からスマホを取り上げるとスピーカーモードに切り替えた。
「それで、一体あなたはどういうつもりで私とこのヘンタイを二人きりにするという鬼畜な所業をしてくれたのかしら?」
そうですか、もはやヘンタイだけでは足りずに俺と二人きりなのは鬼畜なんですか。
俺が泣きそうになっていると、泉が面白がっているのを隠しもしない声音で言った。
「今回は僕も色々迷惑をかけたからね。僕から君たち二人にお礼も兼ねての計らいだよ」
泉がそう言うと、俺と彩は顔を見合わせた。
「例のあのデータを見る限り、これは望んでいたこと……」
俺たちが無言だったからだろうか、続けるように泉がそう言い始めたところで慌てた様子の彩が通話を切った。
「……えっと彩さん、どうしていきなり通話を切断したのですか?」
困惑した俺がそう尋ねると、彩は問答無用と言うような様子で言った。
「ムカついたからよ」
「え?」
俺が聞き返すようにそう言うと、彩は声音を強めて言った。
「ムカついたからよ!」
「ヒッ」
俺は男の子の大事なところがキュンキュンしているのを感じながら、彩が帰宅した後、果たして泉は無事なのか、真剣に悩み始めた。
*
「全く、梓が大塚ちゃんと一緒に行くって言ってたところからきっと企みは始まっていたんだろうな」
ぼちぼち混み始めてきた園内を彩と並んで歩きながらそう言うと、彩もうなずきながら答えた。
「そうね、私もあずちゃんから今回は大塚ちゃんと一緒に行くって言われた時にもう少し警戒心を持つべきだったわ。なにしろ」
俺は彩に被せるように声を出した。
「泉(さん)が関わってるも(のね)んな」
俺たちがそう言ってため息をつくと、遊園地にありがちな猫の着ぐるみをしたキャストが近づいてきた。
サービス精神旺盛だなと思いながら二人でして着ぐるみを見ていると、猫ぐるみは俺たちの手をつかむと引いてきた。
「何かしら?」
彩がそう俺に聞いてくるも俺も別に遊園地に詳しいわけでもないから分からない。
「俺たち、どっちもあまり遊園地にくるようなキャラでもないし、別に予定も決まってないんだから、付いて行くのもアリじゃないかな」
俺がそう言うと、彩も納得したのか、少し笑みを浮かべると頷いた。
そして、着ぐるみに引かれながら、おしゃれなヨーロッパの街並みを再現している中をてくてくと歩いて、角を曲がると、そこには。
「ねえ、傑。本当に何も知らなかったのかしら?」
まるで俺に下心でもあるかのような疑いの眼差しを向けてきた彩のセリフを聞きながらも、俺は目の前の光景を前に絶句していた。
そこには。
『愛の着ぐるみキューピット大作戦! 着ぐるみが手を引いてきたカップル限定で無料でお写真お撮りします!』
そこには、初々しいカップルや熟年のカップルがみんな恥ずかしそうな笑みを浮かべながら動物着ぐるみに引かれている絵があった。




