84話 オフッ……ウッ
無事とは対極にあるような様相を呈した配信もなんとか無事に終わると、俺は今日は付けなかったセンサ機材を遠目に見て、無事に終わったことに胸を撫で下ろしていた。
「今日はいつものセンサ類を付けないと思っていれば、そういうことだったのね」
彩はそう言って、俺と泉の方に向き直った。
「まあね、流石にカメラだけで使えるという案内をしておいて、実際は使っていたと言うんじゃ色々と問題があるからね」
泉はそう言うと、面白いものを見るような様子で俺を見た。
「まあ、共同経営者たる君のアイデアにしては中々のものだったよ」
泉がそう言うと、彩が驚いたような目で俺のことを見てきた。
「これって、あなたのアイデアだったの?」
「まあな」
俺がちょっとだけ得意げにそう言うと、片付けをしていた田所が話しかけてきた。
「流石、自分から、大塚ちゃんの次の行動が手にとるように分かるというだけありますなあ。自分が大塚ちゃんに踏んづけられる直前に合図を出すから、まるで放送事故のようなタイミングでCMかのようにソフトを宣伝をするというのはさすがの拙者でも大塚ちゃんに同情してしまいそうになりましたぞ」
田所がそう言うと、彩が笑いながら言う。
「でも最高の宣伝にはなったのではないかしら? 二人の動きを正確にトレースして、3Dキャラはしっかりと傑のことを踏んでいたわね」
彩がそう言うと、不機嫌そうな様子の大塚ちゃんがやって来た。
「おい、モブ顔。今、聞き捨てならないことばを聞いたぞ」
「いいだろ別に、ビジネス的には大成功だったじゃないか」
俺がそう言うと、大塚ちゃんが我慢ならないというように叫んだ。
「何が、私の行動が手にとるように分かるだ! 舐めるなよ!」
その時、俺の脳内には大塚ちゃんの次の行動がまるで視覚が重なっているとでも言えばいいのだろうか、映像がブレるかのように見えていた。
「田所!」
「な、なんでござるか?」
俺は田所の反応を待つこともなく、田所を大塚ちゃんの間に置くようにして、その後ろに隠れた。
俺は悔しそうな大塚ちゃんを見るようにその大きな背中から顔を出すと、勝利の笑みを大塚ちゃんに向けた。
「どうせ、俺のことを踏み潰すか、蹴飛ばすか、殴るかでもするつもりだったんだろ。俺にはまるで未来が見えるかのようにその様子が想像できたぞ」
俺がそう言うと、大塚ちゃんは悔しそうな顔をするかと思いきや、ニヤリと笑みを浮かべると、後ろ側に足を振り上げた。
「「え?」」
俺と、そして、俺を背負うような形になっている田所が同時に困惑の声を上げる中、大塚ちゃんは無慈悲にもその右足を勢いよく振り下ろした。
「「オフッ……ウッ」」
そして、その足は2コンボ、いや、正確には4コンボを決め俺たち、男子高校生二人の断末魔を生み出していた。
男の子は本当にキツイときはこういう声を出してしまうのだ。
なにやら、吹き出しているらしい、泉と彩と、早苗さんたちのため息を聞き取りながら、俺は田所のうらめしげな声を聞いていた。
「拙者までなぜにこう……いや、これはこれでご褒美……」
その先は聞かないことにした。
遅くなりました。




