83話 メタガラスクオリティー
「久々のメタガラス全員揃っての配信だね! ネット上では私達の仲が悪いみたいなお話もあったみたいだけれど! ほら!」
司会役を務めているチチちゃんこと彩はそう言って両手を広げて横一列に並んだ俺たちに反応を求めた。
「「いえーい!」」
すると、俺と大塚ちゃんだけがそう言って反応を返すも、残り若干二名があたかもなにも振られていないかのように無反応を返してきた。
「あ、あれー? 機材トラブルかなー?」
そうさも困ったかのような声を出しながらも実はニヤニヤ面白そうな笑みを浮かべた彩はそう言って、早苗さんと泉に聞いた。
「いや、何となくお姉さん的にはちょっとキツイノリだったので……」
早苗さんが素のトーンで言い、配信コメント確認のために用意されている巨大ディスプレイのコメント欄がこれこそメタガラスクオリティーというコメントで埋め尽くされる中、泉が止めとなるセリフを放った。
「まあ、初心な二人だけは仲良く二人で元気の良い返事をしてくれたことだし、始めようか」
泉がそうハスキーボイスで次へ進めようとすると、聞き捨てならないといった様子で大塚ちゃんが言った。
「社長、今、私とこのチンチクリンが仲良いって言ったか?」
俺は面白くなると思い、すかさず口を開いた。
「もちろん! 私たちは仲いいもんね! この前だって二人で……」
すると、泉も乗ったとばかりに口を開いた。
「おお、あのことを今ここで言ってしまうの? それは視聴者さんに誤解を与えて……」
泉がそう言った所で、大塚ちゃんが我慢ならないとばかりに叫んだ。
「わ た し は! あんなことや、そんなことをした覚えがない!」
その言葉に俺はニヤリと笑って返した。
「まあ、ビジネスツンドラだもんね。配信外では優しくして、ね」
俺が語尾に特大のハートをつけてそう言うと、横目に突撃してくる大塚ちゃんが見え、俺は予め泉と田所とで話あっていたポーズを取った。
「グッ」
俺がそうグッドマークを送ると、田所は承知とばかりに頷くと、ボタンを押して。
……泉が開発したあるもののCMを流し始めた。
*
「いやー、まさか、あの美鈴ちゃんとセーラちゃんの絡みがあのコマーシャルにつなげるための伏線だとは思いませんでしたね!」
涙子お姉さんこと早苗さんはそう言って、横にいる大塚ちゃんとその下にいる俺を見てニコニコしてそう言った。
俺はもう慣れたとばかりに落ち着いた声音で言った。
「……あの? そろそろビジネスツンドラも終わりにして」
すると大塚ちゃんは足りなかったとばかりに俺を踏んづける足の力を強めた。
「ニャ!?」
本当はこんな可愛い効果音の合うような威力ではないのだが、俺はビジネススマイルと共に耐え忍ぶ。
「えとえと、さっきあったCMの通り、ウェブカメラ一台だけで!」
彩は焦ったような声音の癖して俺のことをニヤリと見下ろして言った。
「こんな風に表情だけじゃなくて体の動きまで自由に動かすことのできる、VTuberは勿論、ゲームに組み込んだりもできるソフト、【メタガラス3D】が一般公開されることになりました!」
彩がそう言うと、コメント欄は過去一とも言える速度で動き始めた。
『VTuber界隈の地図が塗り替えられた』
『応用先がありすぎてメタガスの市場価値すごいことになるんじゃね?』
『流石、世界に名だたるブロンドテックの目をつけた企業』
泉は満足そうにコメントを見ると言った。
「私はこの技術とメタガラスの仲間とで世界の壁と取り払いたいと思っています。このソフトはそのための第一歩として公開することにしました。
想像してみてください。このソフトと3Dモデルの一つがあれば、家にいながら、場所、時間、性別など様々な壁を仮想世界で取り払うことができます。
私はいつか、インターネットをあらゆる壁が取り払われた自由な空間にしたいと思っています。そのためには皆さんの協力が必要です。
これからもメタガラスへの応援をよろしくお願いいたします!」
俺は、泉のスピーチを見て、時代が変わるときの風を感じた気がしていた。
多分、このスピーチを聞いたすべての人がそんな風を感じていたんだと思う。
俺はいつの間にか緩んでいた大塚ちゃんの足元から抜け出すと、気づかないうちに拍手をしていた。
すると、俺に続いて、メタガラスメンバーも拍手をはじめていて、なんともネットらしいというか、コメント欄も「8888」というコメントで溢れて、俺はなんとも心強いような気持ちになっていた。
「なんか、締めみたいになってるところなんですけど、配信枠、まだ半分くらい残ってます」
思い出させるように早苗さんがそう言うと、俺たちはなんともらしいというか、いつものメタガラスクオリティーで配信を再開することとなったのであった。




