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81話 2%

 二階の廊下を一番奥まで進んだ所に泉の部屋はあった。

 和風建築なだけあって泉の部屋の扉は今どきは珍しい横開きであった。

 扉をよく見ると、流石の防犯意識というべきか、鍵が取り付けられており、泉はポケットから緑青の出ている古びた鍵を取り出してドアを開けた。


「この通り、この部屋の鍵は僕しか持っていなからね。母さんはそのままにしているって言っていたけど、必然的なことだったんだよ」


 泉はそう言うと、一人部屋の中へと入っていく、泉は随分埃っぽいねと言いながらあまり広くないらしい部屋の中の窓を開け放った。


「どうしたんだい? そんな所に突っ立って。ああ、わざわざ自室に鍵を取り付けるのを不思議に思ったのか。ここは元々倉庫だったんだよ。倉庫から世界に繋がるなんてなんともハッカーらしいと思わないかい?」


 泉はそう言いながら、昔はパソコンを置いていたであろう机の天板に溜まっていたホコリを指で拭き取った。


「それで、俺に話ってどういうことだ?」


 俺は、なんども女装でひどい目に合わされていた人物の部屋ということで無意識に緊張していたらしい。いつもより少しだけ高い声でそう聞いた。

 すると、泉はメンズポニーテールにしていた髪を解くと、俺との距離を詰めてきた。


「ふふ、君が緊張していたのはそういうことだったんだね」


 泉はニヤリと広角を上げると、壁ドンみたいな格好で俺の耳元にそう囁いた。

 そして、俺の背後から、カチャリと鍵の締まる音が響いた。



「……それで、一体なんなんだよ」


 俺は壁ドン鍵閉めのあとにケロッとした様子に戻った泉から、「こうすれば、あの二人も入って来れないね」というセリフを聞いたことを思い出しながらそう不機嫌を隠しもせずに聞いた。


「そんなに怒らないでくれたまえよ。……以前、僕は君の同志だと言ったことを覚えてるかい?」


 泉はそう真剣な表情になると俺に聞いてきた。


「ああ、俺を誘ったときには面白いことをやらないかとか俺の純情を弄んで誘ってきてくれたことは覚えてるよ」


 俺がそう冗談を言うと、泉はその透き通るような瞳で俺のことを見通した。

 俺はなんだか冗談を言ったことがなんとも悪いことな気がしてきて謝罪とともに言い直した。


「ああ、時々同志たる僕にもとか言っていたのは覚えてるよ」


 俺がそうちょっとだけ視線をそらして言うと泉は満足そうに頷くと、喋り始めた。


「僕は前からね、僕の仲間になれるだけの人物というものを探していたんだよ。それはもう小学生くらいからね」


 泉の言葉に俺は自分が小学生だった頃を思い出す。毎日のように公園で友達とゲームしていたような記憶しかない。俺は少し恥ずかしくなって誤魔化すように言った。


「それは、言うなればどんなワガママも許してくれるような聖人君子を探していたんだな」


「ふふ、それはそうかもしれないね。でも理想と……」


 泉が言う前に俺は言葉を引き取った。


「現実は違うだろうな。だって集まったのと言えば、天才女装ハッカーにツンツン女子高生。クチの悪い中学生にその見た目の幼すぎる保護者。それに鶏頭の中学生に天才男装ハッカー。それに凡人高校生だもんな。理想と現実は違うっていう典型例みたいだ」


 俺が後半あまりにもおかしなメンツに半笑いになりながらそう言うと、泉も釣られたように笑った。


「現実が理想を超えることがあることを僕は初めて知ったよ」


 泉の小さな声に俺は同意するように頷いた。

 すると、泉はなにかを決心したように口を開いた。


「ずっと僕はそうするべきかを悩んでいたけれど、君と色々話して決心がついたよ」


 泉はそこで言葉を止めると、手を俺の前に出してきた。


「僕は今回の出来事で僕は僕だけでは世界を取ることはできないということを思い知った。僕が自分一人で決めて、判断を間違えないように君にメタガラスの株式の2%を持っていてほしい」


 その言葉に俺の喉元まで翼さんの方が適任なのではないかという考えが出てきて、すんでの所で止まった。

 違う、泉に期待されている俺はそう答えるべきではない。

 心の中ではいつか泉に並び立てるような人物になりたいと思っている人物がそう答えるべきではない。


 俺は一回深呼吸すると答えた。


「お前の期待に応えられるように精一杯頑張るよ」


 俺が泉の手を取りながらそう言うと、泉はあの悪巧みを考えるときのようなニヒルな笑みを浮かべた。

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