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79話 泉、実家で話す。

「あら! あらあら!」


 冬さんは梓の幸せにする発言にそう嬉しそうにすると、確認するように泉に聞いた。


「どっちからなの? 楓?」


 すると泉はすかさず言葉を返す。


「母さん、僕は別に誰とも付き合ったりしていない。これは、ただの僕の仕事仲間だよ」


「あらら、そうなのね。残念ね。こんなに可愛い子だったら喜んで結婚も許すのに……」


 冬さんが残念そうにそう言うと、またしても冬さんを混乱させる人物が一歩前に出てきた。


「私、楓さんの(ビジネス)()()()()()として一緒にお仕事させて頂いているエイヴェリーと言います。今日はご挨拶のためにご一緒させていただきました」


 エイヴェリーさんがどう考えても勘違いさせる気しかないだろう挨拶をすると、冬さんは驚いたような様子で泉の方を見た。


「楓、こちらの金髪の美人さんは?」


 すると、タイミングが良いのか悪いのか冬さんの背後から、泉姉弟の父である勤さんが外に出てきていた。

 前回の粉まみれの服で出てきて冬さんに蹴っ飛ばされたことが堪えているのか、今回はしっかりときれいな職人服である。


「私、楓さんと(ビジネスで)お付き合いさせていただいています」


 事態に気づいた泉よりもエイヴェリーさんが言葉を発すほうが早かった。

 そして、その場に居合わせた人も悪かった。


「君に娘はやらん!」


「ちょっと、あなた」


「ごほん、君に息子はやらん!」


 そうして、エイヴェリーさんは泉の両親にとんでもない勘違いを与えることに成功したのであった。

 というか、息子を娘と言い間違える親とは一体?



 泉がなんとかかんとかで両親の誤解を解くと、エイヴェリーさんは悪びれることもせずにニコニコ笑いながら言った。


「スミマセン、私、外国育ちなものですから、言葉たらずになっていました。でも、私は楓さんを結婚したいと思うくらいに好いていますよ」


 エイヴェリーさんがそう言うと、冬さんは嬉しそうに頷いた。


「あなたみたいなしっかりとした美人さんがお嫁に来てくれたらそれはもう私としては大歓迎なんですけどもね。ね? あなた?」


 冬さんはそう言って勤さんに確認をとった、どうも「息子はやらん」というセリフが言いたかっただけらしい勤さんも慇懃に頷いて答える。


「ふふ、実は私も楓さんのことは好いているんだよ……」


 エイヴェリーさんに比べてバカ丸出しで梓はそう言った。

 泉の両親も小学生のおませさんが言っているかのようににこやかな笑みで答える。


「うちの楓のことを好きになってくれてありがとうね」


「これで、両親公認ということに……」


「なってねえよ!」


 俺がそう突っ込むと、泉がその通りだというように頷いた。


「僕は今のところ誰ともそういった関係になるつもりはないよ。なぜなら……」


 泉はそう言うとニヤリと笑みを浮かべると言った。


「僕の技術で、仲間と、世界を取るのだからね」


 泉の言ったセリフに場の一同は泉ならやりかねないというどこか確信めいたことを感じた。

 だからこそ俺は泉と仕事をしてきたのだが、このときの泉の表情は俺の中のその思いをより一層に強くした。


「楓、あなたは本当にいい仲間を見つけたようですね。今日は泉和菓子のために開発したアプリを見せてくれるという話でしたよね。聞かせてもらえますか?」


 冬さんは真面目な様子になると、泉にそう言った。

 泉はうなずくと、パソコンを取り出して説明を始めた。



 俺は、泉が説明する中、疲労を感じて部屋の外で新鮮な空気を吸いに出ていた。横には同じく離席中の翼さんがいて、俺は軽く世間話でもするような気持ちで翼さんに話しかけた。


「俺は、泉があそこまで泉和菓子の業務について学んでいたとは思ってませんでした」


 俺は泉の説明を熱心に聞いていた泉の両親の様子を思い出しながらそう翼さんに言った。


「あの子、結局、和菓子を自分で作ることはできなかったけれど、一通り和菓子についての知識は習得しているの、色々と不器用なだけで、和菓子自体は大好きみたいだもの」


 翼さんの言葉に俺は泉が両親にアプリに説明する際に、細かな業務の内容を知っていなければできないような知識を使いながら説明していたことを思い出した。


「全く、俺は何度あいつには敵わないと思わせられたことか」


 俺がそう言うと、翼さんは面白いものをみたという様子で言った。


「私、傑くん以上にその経験は積んでいるわよ? なにしろ姉弟だもの」


 その言葉に俺は翼さんの泉への姉弟愛を感じるのであった。

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