71話 泉の退院
ひととおり、泉が興奮した梓に蹂躙されるのを楽しんだあと、俺たちは泉が苦笑いの看護婦さんに花束を渡される様子を少し離れたところから眺めていた。
ちなみに梓といえば大塚ちゃんを両手で抱えてほくほくした笑みを浮かべながらその様子を見ている。
「泉楓さん、退院おめでとうございます。もう病院にお世話にならないように健康に気をつけてくださいね」
看護婦さんがそんなことを言いながら花束を渡す。それを泉はニコリと笑って受け取る。もともと整った顔立ちもあってそれは本当に様になっていて、男である俺でも少し見惚れてしまうほどであった。
案の定、看護婦さんも少しやられてしまったようで、少しぽかんとした表情で泉を見たあと、思い出したように花束を泉に押し付ける。
「羨ましい」
美人な看護婦さんからそんな風に花束を渡される泉を見て、俺は思わずそう言葉を漏らしていた。
「へー、それじゃあ私が病院送りにしてあげましょうか?」
と、そんな俺の独り言を聞いていたのか、彩がそんなことを俺の耳に囁いてきた。
傍から見た絵面は良いのに、なんだろう。とっても怖いのだが。
「彩の場合は天界送りにされそうなので遠慮させていただきます」
俺が丁重にそう断ると、彩はいたずらな笑みで言う。
「傑の場合、天界ではなくて地……」
俺は先を言わせまいと言葉を割り込ませる。
「まさか、純情な僕を地獄送りにするような人はこの世界にはいないですよね」
「純情だと傑とかけ離れているわね」
彩がそう言うと、どちらともなくくだらないなと俺たちは笑い始めた。
俺たちがそんなやりとりをしていると、横で大塚ちゃんを抱いている梓が言った。
「お兄ちゃん、私、あの金髪泉さんに感じた違和感が分かったよ」
「ほう」
俺がそう言って梓に先を促すと、泉を見て面白そうな表情を浮かべた彩が梓に口止めした。
「あずちゃん、おもちゃで遊ぶのは時と場所を選んだほうがいいわ」
その言葉に、俺は泉の今後を心配したが、すぐに今までの泉の所業を思い出してまあいいかと思い直した。
*
俺と梓、彩は、泉姉弟とともに車に乗り込むと松本への帰路についた。
「それで、梓、金髪野郎が泉だと気づいた理由ってなんなんだ?」
泉が早々に助手席を死守して梓から離れることに成功したため、少し不機嫌そうに頬を膨らませていた梓に俺はそう尋ねた。
すると、泉はなにか警戒するように、そして翼さんは面白そうな表情を隠しもせずにバックミラーに映して聞き耳を立てた。
「ふふふ、よく聞いてくれたね。お兄ちゃん」
梓はすっかり機嫌をよくすると、言った。
「泉さんはね。女の子が弱点なんだよ!」
その言葉に俺は泉と梓が初めて邂逅したときのことを思い出す。
確かに泉は梓と触れ合って鼻血を出していた気がする。今はもう耐性が付き始めているようだが。
「あの時の金髪泉さんはね、見事なまでにお姉さん配達員と近づかないように振る舞っていたんだよ!」
その言葉に俺はキョトンとした顔で梓を見返す。
そして、その言葉に翼さんが吹き出した。
「そうなの? 楓?」
すると、泉はどこか強がるように言った。
「違うとも、僕はこの世に苦手なものなどないのだよ。なぜなら、行動が予想できれば怖いものなどないからね」
泉がそう澄ました表情で言うと、梓が前の席に座っている泉に座席ごと抱きつくように飛びついた。
「にゃ!? やめ、やめろ!」
「泉、この世に予想できないものはないって考えるのは傲慢だと思うぜ」
俺がそう言うと、顔を真っ赤にした泉が言った。
「君の妹だろ、どうにかしろ!」
「無理だね」
俺は梓の鳥頭を鑑みてそう返した。
更新遅くなりました。
休養も兼ねて土日に小旅行をしたのですが、休養なのに歩きまくりの土日で結局疲労困憊になりました。
ぼちぼち更新頻度高められるように頑張ります。




