表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/122

69話 喜び

 泉との再会を果たした俺はしばらくして戻ってきた老医者に追い出されるように病室から出された。


「よろしくお願いいたします」


「まあ、もう大丈夫だと思うから安心していいよ」


 俺が病室から出るときにそう挨拶すると、すれ違いながら病室へと入っていった老医者はそう返した。

 俺は軽く会釈をしながら病室をでると、開けっ放しになっているドアを閉める。


「で、どうだった楓さんは?」


 俺がドアを閉めて振り返ると彩がそう聞いてきた。


「元気そうだったよ。少なくとも表面的にはな」


 俺が先程の泉の泣き顔を思い出しながらそう言うと、梓が言った。


「彩ちゃんなら絶対にツッコむと思ったのに言わないの?」


 と、梓が聞き捨てならないことを言った。


「おい、梓。今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするんだが」


 俺がそう言うと、彩が軽く吹き出しながら言った。


「俺たち、いや少なくとも俺の価値を最大化するためには泉、お前の力が必要ってこと!」


 俺はその言葉に無言でこの中で一番常識のありそうな早苗さんの方を見る。


「いやー。任せるとは言ってもやっぱり会話の内容は気になっちゃうっすよね」


 早苗さんはそう、頭を掻きながら言うのであった。

 俺は一回深呼吸すると言った。


「ここは、イジるのは俺ではなく泉をターゲットにする形で手を打ちましょう」


 俺がそう言うと、彩は思わず背筋が凍るような笑みを浮かべると言った。


「そうね、あの子には色々やられたし、ここは傑をいじめるのは程々にしましょう」


 人間、恨みを買わずに生きることが大切です。俺がそんなこの世の真理に気づいていると、翼さんが言った。


「本当にみんなありがとう。みんながいなければあの子を見つけることは難しかったわ。本当に。それに……」


 翼さんはそう言葉を切ると梓の方を見た。


「特に、楓がこうして無事でいるのは梓ちゃんのおかげだわ。本当にありがとう」


 翼さんがそう言うと梓はキョトンとした目で翼さんを見返した。


「あれ? 泉さんって過労で倒れただけじゃないの?」


「あのまま、初夏の室内で倒れていたら、熱中症で命の危険があったかもって言われたわ」


 その言葉に俺たちは梓の方を見る。


「本当にあのとき、梓ちゃんが違和感を感じて、楓を見つけてくれて助かったの」


 その言葉に俺は梓の頭に手を当てて言う。


「今回はお手柄だったな」


 俺がそう言うと梓は嬉しそうに言う。


「まあ、私がお手柄なのは今回に限ったことじゃないけどね!」


 と、梓はそこで言葉を切ると言った。


「これで、泉さんの命の恩人は私……勝ったね!」


 その言葉にこの後言い寄られることになるであろう泉を思い、まあそれはそれで面白そうかと俺は思い直した。



 その後、俺たちは松本に戻り、それぞれVTuberの活動を行いながら、泉の退院を待った。

 泉はもともと体が丈夫ではないこともあり、翼さんと老医者が話し合って大事をとってしばらく入院することになっていた。という話を俺達は、パソコンを取り上げる口実ができたと嬉しそうな翼さんから聞いた。

 そして、やっぱり内心というのはどんなに隠していてもやっぱり出てしまうものなのか、伸びの鈍化していたチャンネルの登録者もぼちぼちだが再び伸び始めていた。


「なあ、やっぱり俺のチャンネル、泉がいないときは様子が違ったりしたのか?」


 家のリビングで兄妹でのんびりしていた俺は梓にそう聞いた。


「あー、たしかにお兄ちゃんのゲーム実況とかいつもより業務スマイル感を感じたかも」


 そうか、普段から少しは業務スマイル感を感じているのか。


「そうか、まあ、そうだよな」


 俺がそうなんとも言えぬ返事を返すとポケットに入れていたスマホがブルっと震えた。


「なんだろ?」


 俺がそんな声とともにスマホを取り出すと翼さんからのメッセージが来ていた。


「明日、泉退院だってさ」


「ほんと!?」


 俺が泉の退院を伝えると梓はソファから飛び上がると全身で喜びを表した。


「お前、もう来年には高校生だよな?」


 俺がそう言うと梓は少しも恥ずかしくないというように言った。


「今はまだ中学生だもんね!」


「……高校生になっても同じ行動をしている未来しか見えねえ」


 と、言ってからもまあ、それが俺の妹だなと俺は思い直した。

 どうも俺は今、機嫌がいいようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ