68話 会話
ヒロイン回です。
俺が病室に入っていくと、泉は表情を伺わせないような様子で窓から病室の外を見ていた。
俺は、その様子をしばらく見守ったあと、一歩足を進める。
すると、泉は足音が聞こえたのか、俺の方へ振り向いた。
「僕は別になにも問題なかったよ」
倒れていたくせにと、反射的に言葉が出そうになったが、俺はそれをこらえて言った。
「何してたんだよ。俺たちに何も言わないでさ」
「アプリ開発だよ」
「何なんだよそれ!」
俺はついに今まで溜まっていたいろいろな感情が溢れてそう叫んだ。
老医者は気を聞かせて部屋から出ていたので、大声を出しても誰も咎めない。
「落ち着きたまえよ。一つ質問をしようじゃないか」
泉はそう言ってこちらを見た。
「君は僕のどのような行動に文句があったんだい? 僕は会社から離れてからも仕事は継続していたじゃないか。君たちには何も迷惑がかからないように僕は配慮していたよ」
「勝手に姿を消したこととかさ!」
俺がそう言うと、泉は言った。
「いいかい? 僕は、常に最も価値を最大化できる場所にいるようにしているのさ。今のメタガラスはその場所じゃない」
「泉……」
俺は少し、気持ちを落ち着かせるように息を吐いた。そして、自分の今の考えを誤解の生まないように慎重に語り始める。
「それってさ。結局お前の価値を一番高められるって考え方だろ」
俺がそう言うと、泉は少し下へと向けていた視線を俺の目線に合わせた。
「それの何が問題だと言うんだい?」
「俺たち、いや少なくとも俺の価値を最大化するためには泉、お前の力が必要ってこと!」
俺は言ってる途中で恥ずかしくなって最後は叫ぶようにそう言った。
泉はきょとんとしたような目でこちらを見返すと言った。
「僕を許してくれるのかい? 君たちと成長させる夢を語ったこの会社をメタガラスを勝手に売却した僕を……」
泉は再び視線を下に下げるとそう弱々しく言った。
「少なくとも俺は許さないね」
俺がそう言うと、泉は強がっているような笑みとも言えぬ表情を浮かべると言った。
「そうだろうとも、だから僕は……」
俺は先を言わせまいと割り込むように言う。
「だから責任取って、メタバースでも世界でも制覇して、親会社なんて逆に買収してやろうぜ」
俺がそう言うと、泉はきょとんとした顔をして、笑う。
「君は株式会社の仕組みを1から勉強したほうがいいよ」
「え?」
俺がそう言うと泉はベットから起き上がると窓の外を見た。
「久しぶりにしっかりと外の光を感じたよ。さて、そろそろ反逆の狼煙をあげようか」
俺がその言葉に泉を見ると、微かに肩が震えてるのに気づいた。
「泣くなよ。せっかくまた仲間になれたんだからさ」
何を言うんだと振り向いた泉の顔は涙で濡れていた。




