61話 捜索開始!
「よし、これでみんな揃ったな」
駅の前の広場で俺がそう言いながら見渡すと、学校から帰って制服から私服へと着替えた彩と梓、大塚ちゃんが頷いた。
「このまま電車で諏訪の方へ向かったら、翼さんの指示を仰いで泉を探そう」
俺がそう言うと、一同は異存はないというように頷いた。
「じゃ、電車に乗りますか」
*
「うわ、混んでるなあ」
下校中の生徒たちで入り口の周りが埋め尽くされる様子に俺が萎え切った声とともにそう言うと、大塚ちゃんがあざ笑うような様子で言う。
「こんなんで混んでるって、モブ顔はヨワヨワだな!」
一体、東京とはどんな魔境なんですか……?
「やっぱり、学校帰りの生徒でごった返しになってるわね。できるだけまとまって電車に乗り込みましょう」
彩がそう言うと、梓は嬉しそうな顔で彩にしがみついた。
「いい匂い! 大塚ちゃんもはぐれないように、手を繋いで電車に乗り込もう!」
苦笑いの彩を横目に、梓はそう言って大塚ちゃんの手をとった。
「さ、触るな! モブ妹!」
しかし、そんな大塚ちゃんの言葉も虚しく、梓はそのまま大塚ちゃんを引き付けて電車に乗り込んでしまう。流石に満員の電車の中で暴れることもできないので大塚ちゃんはされるがままになる。
「いいか? 触っていいのは私の手だけだかんな!」
大塚ちゃんがそう言うと、面白そうな顔をした彩が大塚ちゃんのもう片方の手を握った。
「見失っちゃうと困るから」
彩がそう言って、母性本能に溢れるなんとも魅力的な微笑みを漏らすと、梓がぐふふと笑う。
そんな様子をドン引きの様子で大塚ちゃんが見る中、梓は心の中に湧いた言葉をそのまま口から漏らした。
「彩ちゃんと私で小学生な大塚ちゃんの両手を握っていると、仲の良い夫婦みたいだね。キャハ」
梓はそう器用に効果音まで付けて呟いた。
「なあ、モブ顔、私暴れてもいいかな……?」
梓の言葉に彩が吹き出す中、真剣な顔で大塚ちゃんが俺に話しかけてきた。
「自重してもらえると嬉しいです」
俺がそう言うと、大塚ちゃんはすべてを察したような顔で俺のことを見返した。
*
諏訪地域につくと、彩が連絡をしていてくれたようで、駅の前で翼さんと早苗さんが待ち受けていた。
「今のところは進展なしよ。関係会社の所有になっている建物をいくつか調べてみたけど手がかりなし。もしかしたら、会社名義じゃないところにいるのかもしれないわ」
翼さんの言葉に俺は質問する。
「直接関係会社に訊ねてみればいいじゃないんですか?」
俺がそう言うと、翼さんはなんとも言えぬ表情で答えた。
「関係会社の業務に必要なソフトだったり機械だったりを楓が開発したりしているから、関係会社が私たちに積極的に協力してくれるとは考えにくいわ」
「そうですか、俺達と同じパターンですか」
俺は会社レベルでも弱みを握れるような泉の才能に今更驚くこともなくそう返した。
「となると、会社名義の建物と社長や社員さん所有の建物で可能性のありそうなところを調べていくわけですね」
俺がそう言うと、翼さんは頷く。
「そうなるわね。ただ、あの子、基本的に引きこもりだからなかなか見つけるのは難しいかもしれないわ。それにできればあの子に私達がここまで来て探していることを悟らせたくないから、できるだけ隠密行動を心がけてもらえると嬉しいわ」
翼さんの言葉に俺たちは頷いた。
「じゃあ、3手に分かれて探すことにしましょう。私と梓ちゃん、早苗さんと大塚ちゃん、そして高校生同士で傑くんと彩さんという感じで」
流石に、真剣な捜索では梓も文句はないようでみんな真剣な様子で頷く。
「じゃあ、分かれましょう。また8時半頃にここに集合ね」
翼さんの言葉に俺たちは3手に分かれて捜索を始めた。




