60話 手がかり
「お手柄よ。梓ちゃん」
「「へ?」」
俺たちが予想打にしないセリフにそう返すと、翼さんは少し呆れたような口調で言った。
「楓にしては不用心だったようね。梓ちゃんが幼い頃の写真を見たことに危機感を感じたのか。その日のうちに実家にあったアルバムが見せたものを含めてすべて無くなっていたわ」
翼さんはそう言うと、エイヴェリーさんの方を見た。
「ふふ、楓さんは急ぎすぎましたね。店舗前の監視カメラを調べた所、その日の深夜にタクシーで向かってきた姿が写っていました。タクシーは諏訪ナンバー。つまり、諏訪湖周辺を調べれば! 楓さんは見つかるね!」
エイヴェリーさんはそう言うと、キーボードのエンターキーをパーンと押した。
すると、作業に使っていたディスプレイが監視カメラの映像で埋め尽くされる。
「ネットのレジェンドの調整したパラメータデータなんかがないのは残念ですが。私も技術者の端くれ。この程度は朝飯前です! 解析と同時に調整するね!」
「先日、エイヴェリーさんに頼んだばかりなのに、車のナンバーのことを話したらもう準備は出来てるって言われて」
翼さんはそう驚きの声で説明してくれる。
「わ、私、こうなることを想定して泉さんの写真を送ったんだからね! うん、我ながらいいアイデアだ!」
梓はそう言って、胸を張る。どう考えても嘘なのだが、俺たちはこればかりは見逃してやろうと、温かい笑みでその様子を見る。
「それで、翼さん! あれ以外のアルバムにはどういった幼い泉さんが写っているので……ぐふ」
俺は温かい笑みを浮かべたまま、恥さらしの妹の口を塞いだ。
*
「ともあれ、諏訪という手がかりが見つかったからには私達にもやれることが出てきたわ。諏訪は工業が盛んな地域だから楓と取引のある会社が数社あるわ。そこの周りを調べてみましょう」
翼さんはそう言って俺たちを見回した。
「もちろん。私も協力するっすよ。メタガラスには烏城が必要っすからね」
早苗さんの言葉に俺たちもうなずく。
「ともあれ、傑くんに彩ちゃん、梓ちゃんに大塚ちゃんも学校があるから、基本的には私と早苗さんでということになると思うわ。エイヴェリーさんはこのスタジオでパラメータをいじりながら、私達にアドバイスを送ってもらえると助かります」
「まかせてね!」
翼さんの言葉にエイヴェリーさんもしっかりと頷いた。
泉を見つけるためにみんなが協力していた。俺は是が非でもあいつを見つけてあいつがどれだけみんなから大切にされていたかを見せつけてやりたい気持ちに駆られた。
「俺も学校終わりとか、休みの日には手伝います。そんなに遠くないですから」
俺がそう言うと、梓が言った。
「お兄ちゃん! 私も連れてって!」
「ああ、もちろん。梓も連れてく。人数は多いほうがいいから」
「私も行くわよ」
彩もそう言って参加を表明すると、負けじと大塚ちゃんも言う。
「私も行くかんな!……早苗さんは翼さんと一緒に行っちゃうと思うから、私も一緒に」
俺がその言葉になにこのかわいい生物と思っていると、脳みそのネジが外れている梓が鼻息を荒くして言った。
「ふふ、中学校が一緒なんだから、私が一緒に行って……」
「彩さん! 一緒に行こうな!」
梓が言い終わる前に大塚ちゃんは勢いよくそう言った。
しかし、大塚ちゃん。彩の性格は……。
「ええ、良いわよ。あずちゃんも一緒にね」
悪いのだ。と俺の脳内音声が言う前に彩は優しげな笑みでそう言った。
大塚ちゃん、助けてほしそうな目で見ても俺はなにもできないよ。
「彩、放課後駅集合でいいか?」
俺が集合場所のことを確認しようとそう聞くと。
「あら、いつ私が傑と一緒に行くって言った?」
あら、非道いわ!
俺が全力で飼い主に怒られた犬の顔をして抗議すると。彩は笑いながら言った。
「冗談よ。そんな飼い主に怒られた犬みたいな顔で私を見ないで」
どうやら、俺の飼い主に怒られた犬の顔のモノマネはとても上手いらしい。




