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57話 道中

 次の日、俺たちは信州に本社を持つ「泉和菓子」本店へと向かっていた。


「翼さん、ご両親ってどんな方なんですか?」


 翼さんの運転する車の中、渋滞に巻き込まれたことで、だでさえ陰鬱な雰囲気だったのがさらに重くなっていた。俺は空気を軽くするような意味も込めて、いままで気になっていたけれど聞けなかったことを聞いた。

 翼さんは顔を正面に向けたまま、車のバックミラー越しに語りかける。


「あの子が両親とうまくいってないという話は前したと思うけど、私達の親は決して駄目親とか毒親とかそういうジャンル分けされるような人じゃないの。それよりもどちらかというと世間一般の良い親に分類されると思うわ」


 翼さんはそう言ってから、身内贔屓かもだけれどと少し笑いながら付け加える。


「家業がある家なら自分の子供を跡取りにって思うと思うけれど、私の両親も例に漏れずに楓を跡取りにって思っていたみたいで」


 翼さんはそこで止めると、ぽつりと続けた。


「今の楓からは想像できないかもしれないけれど、あの子、小さい頃はとっても引っ込み思案で店頭にでるなんて考えられないくらいだったの。それならばと和菓子製作をさせようとしようものならすぐに注意が明後日の方向に向いちゃうしで、私の母の社交性や父の職人気質はどこにいったのって感じで」


「泉にもそんな時期があったんですね」


 俺がそう言うと翼さんはそうねと続ける。


「でもね、私がパソコンを買い替えたときにお古のパソコンをあげたらすぐに熱中しっちゃって、母のご飯の呼び出しも父のお菓子作りの修行もみーんな注意の外、しまいにはお父さんが怒ってね、それでも知らんぷり。何かプログラミング関係の大会だったかな? まだ小学生なのに大学生も出ている大会で優勝しちゃってね。ついには両親も好きにさせようってなっちゃった」


 翼さんは、そう言って笑う。きっとこの笑いには誇らしい気持ちと、愛おしい気持ちと、どこか呆れたような気持ちが混じっているんだと思う。


「それで天才ハッカーが生まれたわけですね」


 俺の言葉に翼さんは笑いながら頷いた。


「あの子の気持ちはあの子にしかわからないけれど、きっとあの子なりに感謝はしてたんだと思うわ。高校に上がってからはあの部屋に両親を呼んだりしなかったけれど、あの子なりに負い目みたいなのを感じてたのかもしれないわね」


「その気持ち、わかるっすよ。私の実家も『泉和菓子』に比べれば、吹いたら飛んでっちゃうくらいの規模っすけど、家業があるんすよね。東京に出たときには応援こそしてもらいましたけど、どこか負い目を感じましたから」


 ずっと助手席で聞いていた早苗さんがそう言った。


「私も今ここにいるのが答えというか、菓子屋を継ぐなんてこれっぽっちも意識したことないけどね、それでもやっぱり申し訳ないって思っちゃいますから」


 翼さんは共感したようにそう返した。そして、再び社内が静かになると、梓が唐突に声を張り上げた。


「泉さんの実家で話を聞けば、きっと居場所の手がかりは見つかるよ! 翼さんあとどれくらいで着く!?」


 梓の励ますようなセリフに、車内の空気が少し軽くなったような気がした。アホの子だけれどこういうときには心強い。

 苦笑いの翼さんが答えたあとも、もうしばらく車は走り続けた。



「翼、この人たちが?」

 

 泉和菓子本店の裏側に車を停めると、ずっとそこで待っていたのか、和服姿の美人なお姉さまが車の方へと近づいてきた。


「そう。こちらが早苗さんで、こっちの男の子が傑くんで楓の同級生。その隣が傑くんの妹の梓ちゃん」


 俺たちは紹介を受けると、こんにちはと挨拶をした。

 すると、整った顔に少し疲労を感じさせた泉の母親も挨拶を返す。


「こんにちは、楓のためにありがとうございます。楓と翼の母の泉(ふゆ)と申します」


 冬さんはそう挨拶すると、俺たちを建物の中へと案内してくれた。

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