56話 作戦会議2
「ちなみに、翼さんと田所さんって泉がやったように監視カメラハックってできるんですか?」
俺がそう尋ねると、翼さんは頭を振った。
「いいえ、私は多少のITスキルはあるけども、そこまでのスキルはないわ。あの子も業務に支障がでないようにあの部屋にあるパソコンの最低限のアクセス制限は解除していたみたいだけど、監視カメラハックのシステムにはどうやってもアクセスできなかった」
翼さんも既に試みていたようでそう言った。
「拙者も同じです。翼さんと一緒にあれこれやってみたのですが、人をおちょくるようなエラーメッセージで跳ね返されるばかりで」
田所もしょんぼりしたようにそう言った。
すると、ニコニコしながら黙って見ていたエイヴェリーさんが口を開いた。
「私がなんとかしましょうか? アクセス制限の解除は難しいかもですが、監視カメラハックぐらいなら簡単ですよ。なにしろ私、IT企業からやってきましたかね!」
ニコニコ顔のエイヴェリーはそう言って、胸を張った。
俺たちは、驚いた顔でエイヴェリーを見返した。
「ははーん、疑っていますね! 本国の会社が凄腕ハッカーと言われる泉さんがいる会社に素人を送りこむはずないですね!」
「確かにその通りね……」
さんざん泉にいいようにされてきた俺たちは彩の言葉に深く頷いた。
「というか、エイヴェリーさんからすると、泉が出てこようが出てこまいが関係ないんじゃないですか?」
俺は落ち着いて考え直してそう聞いた。
「ふふ、私も技術者の端くれ。烏城の正体が気になるのですよ!」
俺はその言葉に今も泉がいればきっと女装姿で騙しにかかるのだろうと思った。そしてそんな考えが今はただ虚しい妄想であることに胸の痛みを感じた。俺はその痛みを無視するように振り切るとエイヴェリーさんの方を向く。
「エイヴェリーさん、ぜひ協力をお願いします」
久しぶりに人に頭を下げたように思う、俺がしばらくそうしていると、エイヴェリーさんは言った。
「ノーノー、ここはシェイクハンドですよ! ほら!」
俺が顔をあげるとエイヴェリーさんは男の人にしては細くてきれいな手で俺の手を握った。
日本人が金髪碧眼の外国人に憧れがちなのはこういったところからなのかなと思った。
*
そうして、明日泉の部屋のパソコンのアクセス制限の解除を試みることに決まったあと、ずっと聞き手に注力していた早苗さんが言った。
「一回、泉さんのご両親に合うために『泉和菓子』に行ってみた方がいいじゃないっすかね。お金を送金していたとなるとなにか手がかりがつかめるかもしれないですし」
早苗さんがそう言うと、翼さんは少し考えてから言った。
「そうよね。一回私達の実家で両親にも聞きましょう。全員で行くとあれだから傑くんと、」
そう翼さんが言ったところで梓が勢いよく手を上げた。
「私も行く!」
俺が、あのなあと梓を諌めようと梓の方を見ると、真剣な顔をした梓がいた。
「俺からもお願いできますか?」
俺が梓の様子にそう頼み込むと、翼さんは頷いた。
「傑くんと、梓ちゃん、それに早苗さんに一緒に来てもらってもいいですか?」
「もちろんっすよ」
早苗さんがそう答えると翼さんは少し目尻に涙を浮かべて頷く。
「ありがとう」




