55話 作戦会議1
「私、楓さんとこれっきりなんて嫌だから」
「そうっすよ。このままなんて絶対だめっすよ」
「そうだな! 泉楓には借りがあるかんな!」
梓が玄関のドアを開けると、家に荷物をおいてすぐ来たという様子の早苗さんと大塚ちゃん、そして彩がいた。
「そうだよな。俺は絶対にアイツを見つけ出して、散々にイジってやりたい」
俺は暗くなっていた気分を盛り上げるためにそう冗談を言った。
「そうね、楓さんには色々とやられたからものね……」
「思い出してみると、ちょっと腹が立ってきたっすね」
「そうだな!」
あの、冗談のつもりで言ったんですけど。
俺がそんな風に思っていると、梓が言った。
「そんなことよりも! 今は泉さんの居場所を突き止める方法をみんなで考えないと!」
梓の言葉に俺たちは目的を思い出すと、リビングで作戦会議を始めるべく家の中に入った。
*
「私達みたいな素人が取れる手段は限られるっすよね」
早苗さんが言ったようにただの素人である俺たちが取れる手段は限られていた。
「監視カメラ作戦もある程度場所を絞れないと使えないし、そもそもツールの開発者が泉自身だもんなあ」
俺は、人探しと聞いて一番はじめに思いついた監視カメラハックについて考えてそう結論を出した。
「田所や翼さんもわりとITスキルは高いけど、泉が別次元すぎてな」
俺がそう言うと、彩もうなずきながら言う。
「そうね、現時点ではその方法を取るのは難しいかもしれないわね」
「となると、人海戦術的に行くしかないっすかね。全然人数いないっすけど……」
早苗さんの言葉に俺たちはしばし無言になる。
「翼さんたちの話し合いはもう終わったのかな? 電話してみる!」
と、話し合いがどん詰まりになった所でいつになくやる気に満ち溢れている梓がそう言って、手に持ったタブレット端末で電話をかけようとして。
「おい、梓。そのタブレットはこれから使うのは控えた方がいいぞ」
俺はそう言って梓の行動を止めた。
「そうね、楓さんのことだもの。何を仕掛けられているかわかったものではないわ」
なんだろう、なぜか彩が遠い目をしている気がするのだが。
「あの……。今聞き捨てならないことを聞いた気がするんっすけど。仕掛けられてたとは? 私も泉さんからパソコンを支給してもらったんすけど」
その言葉に、俺と彩は優しい顔になる。
「なんすか、なんで何も言わないっすか!?」
俺はその言葉に何も言わずに、自分自身で購入して、一切泉に触れられていないスマホから翼さんに電話をかける。
「答えてくれないんすね……」
そんな早苗さんの言葉を横で聞きながらしばらくコール音が繰り返されるとちょっと疲れた声の翼さんに繋がった。
「どうしたの? 傑くん?」
「俺たち、泉を探し出そうとして、今みんなで集まっているんです」
俺がそう言うと、翼さんは少し間を開けて言った。
「分かった。今から私と田所くんも行くわ。少し待っていて」
翼さんはそう言うと、通話を切った。
*
「ごめんね。もう夜だけれど、姉として私も楓の居場所が知りたいの」
「拙者も泉殿にはまだまだ教えてもらうことがたくさんあるのです」
疲れた様子の二人が家に入ってくると、なぜかついてきているもう一人がちょっとイントネーションのおかしい日本語で挨拶しながら入ってくる。
「こんばんわ! 私も天才ハッカーを探すお手伝いをするね!」
新社長エイヴェリーはそうニコニコ笑顔で言ってきた。
すると、横に立っている梓が俺に聞こえるくらいの声で言う。
「なぜか分からないけど私、この人苦手。なにか本能的に危機感を感じるよ……」
……梓のくせにイケメンが苦手だと? 日本語がおかしい以外にはただの長身イケメンだと思うのだが。
そんなわけで作戦会議は人数を増やして再開することになった。




