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54話 同じ考え

「ねえ、お兄ちゃん。本当に泉さんはもう会社に来ないの?」


 エイヴェリー新社長と翼さん、そして田所が引き継ぎを行うということで話し合いどころではなくなったので、俺たちはトボトボと帰路についていた。来るときは別々だったが、帰りはみんな同じ方向というか、お隣同士なので俺たちはゆっくり話しながら帰っている。


「さあな。アイツのことは俺には分からねえよ」


 俺には泉の行動が分からなかった。いつもは俺たちをあんなに翻弄していたくせに、会社を勝手に売却したくらいで姿を消すなんて。そりゃ驚いたけれども、理由があったことならいいと俺は思うのに。


「怖くて聞けなかったっすけど、借金いくらだったんすかね。全国規模の和菓子って言うと『泉和菓子』っすよね。あれだけの店舗数だとそりゃ」


 社会人経験があり、実際の金銭感覚のある早苗さんはそう言葉を止めた。

 以前さらっと経営難の会社からARゴーグルの権利を買い取ったと言っていたが、それだけの蓄えがあってもなお会社を売らざる負えなかったとすれば、仮に俺たちの給料を寄付したとしても到底足りないということなのだろう。


「楓さん、ずっと平気そうにしてたのに」


 ぼそっと彩が言葉を零した。

 そうなのだ。俺たちは、泉に一言も相談されることがなかった。

 

 俺は泉のことを友達だと思っていたのに。



 その後、だんだん雰囲気が重くなっていき、口数が少なくなったところで俺たちはそれぞれのうちに帰っていった。

 俺と梓が家に入っていくと、梓が不安そうな顔で俺を見てくる。


「ねえ、泉さんとこれっきりってことはないよね?」


 その問いに俺はとっさに答えられなかった。


「分からない」

 

 分からない。そう分からないのだ。仮にあらゆるネット技術に精通した泉が本気を出したのなら、ただの一般人でしかない俺たちが泉を見つけることは困難だと思う。


「とりあえず、今日の配信しないと」


 俺は努めて泉のことを頭から追い出すように自分の部屋に籠もると今日の配信を始めた。



「今日はこの辺で終わりにするな! また見に来てくれよな!」


 俺がそう今日の配信を終えると、配信中に気になっていたことを調べるためにサブディスプレイを見た。


「彩も早苗さんも大塚ちゃんも、きっと色々忘れるために配信してるんだと思うけど。泉、お前も配信するならなんで俺たちの前に顔を表さないんだよ……」


 そう、泉はVTuberの配信だけは変わらず続けていたのである。



「ねえ! お兄ちゃん。泉さん配信してるよ!」


 俺が配信を終えて部屋から出るとまるで待ち構えていたように梓が例のタブレットを持って部屋に駆け込んできた。


「ああ、俺も確認した。たしかに泉の声だ」


 泉は、イラスト配信を行っていた。ちょっとした雑談をしながら、和やかに視聴者とコミュニケーションを取っていた。

 俺は泉が元気だったことの安堵と、なぜ会ってくれないのかの困惑で頭がいっぱいだった。


「なあ、梓。俺さ」


 俺が決めたと思って、そう声を上げると、梓が言う。


「私、泉さんを見つけて引っ張ってくる!」


 兄妹で同じ考えに至ったことがこんなに嬉しかったことはないかもしれない。

 俺たちは頷くと、他の三人を交えて今すぐ作戦を練るために、玄関に向かって。


……ピンポーン


 どうも、メタガラスの社員はみんな同じ考えに至ったようだった。

 

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