52話 ネット上の伝説、VTuberデビュー2
「ではでは、社長ちゃんにも登場してもらいましたので、3Dモデルや、衣装の感想でもコメント読みさせてもらいましょうか!」
泉が自己紹介を終えると、早苗さんはそう言って、彩にコメント読みを任せた。
「私がコメント読みしますね……! えっと、コメントが吐息のことしか書かれてないよぅ」
彩はコメント欄を見て、困ったようにそう言った。顔が笑っているのは、実際の表情が見えないというVTuberの闇なのだろうか……。
「うん、結局烏城は可愛いということだな!」
コメント欄を総括して大塚ちゃんがそう言った。
「そうだね! 烏城ちゃんは可愛い。銀髪ウルフの犬耳がちょっと動いているのポイント高いですね!」
彩がそう言って同調する。
「僕は可愛いようだね」
泉は褒められるとそう言ってクルッと一周した。3Dモデルもそれと連動してスカートが空気を含んでふわっと浮かんだ。清楚かわいいです。はい。
すると、コメント欄は。
『結婚してください』
『ガチ恋勢になります』
と、物凄い勢いで流れ始めた。うん、分かるよ。ボクっ娘いいよね。
でもね、中身男なんだわ。俺が言うのもあれだけれど。
俺は、ローアングルから、翼さんを見て心を落ち着けた。すると、しばらくして彩がこちらをちらっと見たかと思えば、切り出した。
「それじゃ、例のセーラちゃんがポロリした企画いっちゃいますか!」
俺の脳裏にはこのとき、ある考えがよぎった。
「セーラちゃんじゃポロリできないよ!」
俺が、実際の社会で言ったら社会的に抹殺されかねないネタを打ち込むとコメント欄はその日3番目くらいの風速を記録する!
社会的に抹殺されると思った? でも大丈夫! 2.5次元じゃ女の子だもん!
そんなことを思っていたときも数秒前にはありました。
でも、俺は思い出しました。
セーラちゃんに今も踏んづけられていた恐怖を…
足裏の底に囚われていた屈辱を……
「黙れ!」
「ニャ」
俺が物理的に抹殺させられていると、彩と泉が器用にもマイクに笑い声が入らないように笑い始めた。
あ、泉が完全に吹き出した!
と、大塚ちゃんが音響作業をしている田所に合図を出した。
「このまま、烏城さんとデュエットする! 曲スタート!」
と、俺を足で踏みつけたまま、烏城お披露目会は進んでいった。
はい、俺は床ですよ。
*
そして、俺は結局コラボ配信終了までそのまま床に倒れ込んだままであった。
動画サイトの急上昇やSNSのトレンドにもあがるほどの反響があったので成功は成功なんだと思う。思うことにする!
そして、反響によって、烏城の個人チャンネルの登録者数が、ものすごい勢いでカウントされている様子をみんなで少し見たあと俺たちは解散することになった。
早苗さんや大塚ちゃん、彩に梓たちが一足先に帰る中、俺は泉から新型のモーションセンサを受け取るため、プレハブスタジオのすぐ横の泉の仕事部屋にやってきていた。
入り口のスリッパは泉と翼さん、俺の青色の3足だけだったのが、いつの間にかに9足まで増えて少し玄関が窮屈になってきていた。
「ふふ、随分と増えたものだね」
俺がスリッパを履く際にそんなことを考えていると泉も同じことを考えていたのかそう言った。
「そうだな」
俺はそう答えると、泉からセンサを受け取って家の帰路についた。




