番外編 ホテルに泊まるだけの話なのに
茨城初日の話です。
番外編とか言ってますが、話数がこんがらがるので、48話扱いで、次話は普通に49話のナンバリングです。
「じゃあ、部屋は3つ取ってあるから、私と、彩ちゃんは一緒。男どもは二部屋好きに使ってね」
茨城県に到着した俺たちはホテルに着くなり、翼さんにそう言われた。
俺は鍵を2つ受け取ると考える。
二部屋を3人でということは2・1に分かれることになる。俺は田所と女装姿の泉を見て、無言で頷くと、田所に声をかけた。
「よし、俺たちが一緒の部屋だな」
「せ、拙者は泉さんの所でもいいですぞ」
田所がもじもじしながら泉を見ているのだが、俺は時々、田所は泉が男だということを知らないのではないかと錯覚を覚えてしまう。
「いや、お前は俺と……」
俺がそう言ったところで右腕になにか、柔らかいものが当たっていることに気がついた。
「お、おい。お前……」
俺が思わずそう言葉を漏らすと。
「私、すーくんと一緒の部屋がいいな」
きゃはといった笑みと言えば伝わるだろうか。泉はそう男の子的にはなんとも理想的な上目遣いと、笑顔でそう言ってくれた。
「お前、なぜ柔らかいんだよ」
俺が、少し遠く、エレベータを待ちながら、こちらをジト目で見ている彩をチラチラ確認しながら、そう泉に尋ねると。
「私、色々な会社の技術顧問をしているって言ってたじゃない? その中に、オーダーメイドパッドを手掛けている会社があってね」
泉はそこで言葉を切ると、小さな声で。
「製作機器と連携して、オーダー通りにパッドを作れるソフト。つまり、理想のおっぱい作成ツールを開発したの」
そう、のたまった。というか、一体ナニを未成年に開発させているんですかねえ?
俺は彩とともにエレベータ待ちをしている、企業との交渉を担っているはずの翼さんを見ながら、右腕に感じる柔らかい感じを無視しようと努めた。
……コレはニセモノだ。コレはニセモノだ。コレはニセモノだ。コレはニセモノだ。コレはニセモノだ。コレはニセモノだ。コレはニセモノだ。
俺は、心の中の名残惜しい感覚を追い払うと、泉を引き離して、田所を引っ張ってエレベータに向かっていった。
*
「ぐがーずぴぴぴぴぴぐがーずぴぴぴぴぴぐがーずぴぴぴぴぴぐがーずぴぴぴぴぴぐがーずぴぴぴぴぴぐがーずぴぴぴぴぴ」
……うるせえ
俺は、田所と同じ部屋で布団を被りながら眠れない夜を過ごしていた。
田所からは壊れかけの洗濯機が回っているのではないかと思うほどのいびきが放たれていた。
俺は、もう無理だと悟ると、自分の荷物を持って隣の泉の部屋へと向かっていった。
部屋をノックすると、泉はなにか作業をしていたようで、ブルーライトカットメガネをかけたまますぐに出てきた。流石に一人で寝るときには女装姿ではないようで、今は後ろ髪を縛った男の子スタイルだった。
「田所のいびきがうるさすぎてねれないから、こっちの部屋で寝てもいいか?」
俺がそう言うと、泉は面白そうな表情でうなずく。
「さっきはあれだけ僕のことを避けていたのに、ずいぶんと落ち着いているじゃないか」
「それは、お前が女装なんてするからだろうが」
俺がそう言いながらも部屋に入っていくと。
そこには、ピンク色の。
「お前、下着までつけてんのかよ……」
なんとも目のやり場にこまるブラとショーツが吊るされていた。
「僕は本物リアルを目指しているからね」
「その言葉のチョイスはやめてくれ」
俺が、そうげんなりしながら言うと、泉は明日も早いからねというと、俺に気を利かせてくれたのか、作業中だったと思われるパソコンを閉じると、部屋の電気を常夜灯に変えた。
「今から、女装になること。添い寝しようとすることは禁止だからな」
俺は泉がやりそうないたずらをしないように先に釘をさしておくと、空いている方のベッドに潜り込んでそのまま目を閉じた。
「仕方ない。今日は君にそういったことをするのは止めておこう」
俺は泉のその言葉を聞くと、安心して眠りにつこうとした。
*
「んっ、ん」
俺がやっと眠りに落ちようかという頃、となりのベッドの布団がごそごそと動きながら、泉が寝苦しそうに寝返りをうっていることに気がついた。
これはわざとなのだろうか。俺は悶々とした気持ちを抱えたが、指摘をして泉を起こすのも悪いと思うことにして、そのまま寝ることにした。
そういえば、最近聞いたASMRの添い寝ボイスに似たようなシチュエーションがあったなと思いだして。
その日、俺はとても快眠することができたということだけ、結論をお伝えしておこう。
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