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47話 おばさん

 ひとまず、コンビニで運命の出会いを果たしたおばさんが、あの犬炎上事件の当事者であることと、明日時間がとれるということを確認したので、俺と彩はおばさんと明日会う約束だけ交わすと、車まで戻っていった。


「ずいぶんと時間がかかったのね」


 車に乗り込んだ俺と彩をチラリと見て、翼さんがそう言った。


「それが、見つかったんですよ」


「なにか、探してた商品でもあったの?」


 翼さんが不思議そうに見てきたので俺は補足するように説明した。


「おばさんが見つかったんです」


「え?」


「だから、おばさんがコンビニで働いていたんです」


 俺がそう言うと、横でパソコンで作業をしていた泉がパソコンの画面を閉じて笑い始めた。


「そうか、それは見つからないわけね。こんなに近いとは思わないもの」


 泉はお腹を抱えてそうくくくと笑った。

 笑っている女の子って可愛いよねとか、俺が女の子モドキを見ながら哲学的な考えを巡らせていると、


「まあ、良かったわ。これで、大塚ちゃんの炎上事件に決着がつけられるかもしれない」


 翼さんが嬉しそうにそう言って車を出したので、俺は泉と明日のことについて話始めた。



 次の日、俺たちは、待ち合わせの場所である河川敷の道までやって来ていた。


「そうですか、あの件であやねちゃんが色々とバッシングを受けて私も申し訳ないと思っていたんです。テレビ局の人も仕方ないと言うし、謝ろうにも私みたいな一般人が芸能人の女の子に会う機会もありませんでしたから」


 おばさんに録音の許可を貰って、俺たちは大塚ちゃんの半分冤罪な炎上事件のあらましについておばさんに語ってもらっていた。


「いつもは、犬のリードを短く持っていたんですが、あの日は、すぐ近くでテレビの取材をやっていたものだからつい目を離してしまって、うちで飼っていた、ポチ公が……」


 おばさんはなにかを思い出すように河川敷の道を見渡した。


「一直線に、あの子のもとに走り出したんです。そのあとはテレビで放送されたように」


 おばさんは申し訳無さそうにうなだれてそう言った。


「犬の飼い主として、犬が苦手な人やアレルギーで近づけない人がいることはよく意識していたつもりだったので、うちのポチ公が蹴られたことに対してなにかを言うつもりもありませんでした。だけど、私の意思なんて関係なく、当時急速に普及していったネットで炎上してしまって……」


 おばさんがそう言って言葉に詰まったところで、翼さんが優しく言った。


「ありがとうございます。この証言のおかげで大塚ちゃんの無実というか、炎上は行き過ぎだったことを客観的に証明できる証拠ができました。ありがとうございます」


 翼さんの言葉におばさんは目尻に涙を浮かべながらうなずく。


「あの子に許してもらえるとは思わないけど、こんなおばちゃんでも今もあやねちゃんを応援していたことを伝えてくれますか?」


 おばさんの言葉に俺たちはしっかりと頷いた。


「必ず、大塚ちゃんは復活しますから、あの子、歌手を目指しているんです。良かったら曲を聴いてあげてください」


 翼さんがそう言うと、おばちゃんは。


「最近テレビで復活したときに聴きました。いい歌だと思いました」


 俺は、その言葉をいつか、大塚ちゃんに聞かせたいと思った。

 

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