45話 妹ちゃんは百合なのか。
「近い! 近いぞ! モブ妹!」
私は早苗さんの運転する車の後部座席で大塚ちゃんの横の席を勝ち取っていた。
「二人は本当に仲がいいっすね~」
「これが! これが仲がいいように見えるのか!」
私とくっついている大塚ちゃんがそんなことを言うけれど。
「私、大塚ちゃんと仲がいいもんね!」
私は胸を張ってそう言うと、さらに体を密着させる。
「いや~本当に仲がいいっすね~」
早苗さんがチラリとバックミラーを見てそう言った。
「節穴だ! 早苗さんの目は節穴だぞ! わっ、触るな! そんなところ触るな!」
「ぐ、ぐへへ」
……私たちは泉さんから貰った旅行券を使って、温泉旅行に向かっていた。
*
「もうすぐ、サービスエリアに着くっすよ」
ぬいぐるみのように大人しくなった大塚ちゃんは、その早苗さんの言葉に小さな返事とともにコクリと頷いた。
「ふふふん、大塚ちゃん。あんなにはしゃぐから~。旅行は始まったばかりだよ! もうちょっと落ち着かないと」
同級生だけど、私がお姉さんらしくそう言うと。
「お前が! お前がそれを言うのか! 私が悪いのか!?」
大塚ちゃんがまたはしゃぎ始めた。
「ほらほら~またはしゃいじゃって~」
「これのどこが! はしゃいでいるんだ!」
ふふ、今の嬉しそうに興奮している様子なんだよね。
私と同じ感想を持ったのか、バックミラーに映る早苗さんがどこか面白そうな目で言った。
「大塚ちゃん、そんなにはしゃぐと後で体が動かないっすよ~」
「私が! 私がはしゃいでるのか!?」
大塚ちゃんが叫んでいるうちに気づいたら、サービスエリアにたどり着いていた。
*
せっかくなら、目的地に着いてからしっかりしたものを食べようということになって、私たちは車の中で軽食を摂っていた。
私は食べるのが早い方なので、早々に食べ終わるとお兄ちゃんと勉強合宿に行っている彩ちゃんとチャットアプリでやり取りをしていた。
「彩ちゃんが私のお姉さんになる日も近いかもね」
私が顔をニヤニヤさせながらそう独り言を言うと、
「おお? 泉さんは恋の敗者になってしまうのか!?」
早苗さんがそう煽てるように言った。うむ、二人は泉さんが男だと知らないから、ここで私が変なことを言って泉さんが男だとバレてしまっては私が泉さんにナニをされちゃうか分からない!
私は身を守るように、体を抱きながら体をクネクネさせる。
「モブ妹、動きがキモいぞ」
私はそんな乙女に言ってはいけないことを言った大塚ちゃんをぬいぐるみのように抱き込んだ。
「わ! 私はぬいぐるみじゃないぞ!」
腕の中で暴れる子供体温の大塚ちゃんの温かさを感じていると、ピコンとスマホの通知音が鳴った。
「彩ちゃんからボイスデータが」
私はチャットアプリに添付されていたボイスデータをスピーカーモードで再生した。
『僕は、梓くんのことが大好きだからね』
「キタコレぇ!」
「「!?」」
私がそのボイスメッセージに叫び声を上げると、大塚ちゃんと早苗さんがビクリとしたように体を強張らせた。
「これは、泉さんの声……。でも一人称がボクだったような?」
早苗さんがなにか考え込むようにそう言った。まずい、泉さんが男なのが私のせいでバレたとなると、私、泉さんにナニをされちゃうか分からない! ナニかが、むふふなことならどんとこいだけど、別のことだとヤバいよ!
私は賢い脳みそをフル回転させると言った。
「いや~、照れちゃうなあ! 泉さんとボクっ娘プレイしてるのバレちゃった!」
私は天才的なひらめきと共にそう言った。
すると、早苗さんがどこかテカテカした顔つきで言った。
「いや~百合っすねぇ。ごちそうさまです」
早苗さんがそう言うと、現在進行系で私に抱きつかれている大塚ちゃんが、暴れながら叫んだ。
「私をごちそうさまするなよ! 私はノーマルだ!」
「大塚ちゃん! もう好きな男の子がいるの!? おませさんだな~」
私が大塚ちゃんを抱きかかえながらそう言うと、
「うわ~! もう嫌だ! 私とお前は同級生だ!」
「お姉さん、妹的なシチュもいいっすけど、同級生シチュも捨てがたいっすね~」
早苗さんがそう言うと、
「おかしい、なんで最近私が関わる人物にマトモなのが全然いないんだ!」
大塚ちゃんがそう叫んだ。




