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43話 アナログ

「僕は酔ってなんて、うッぷ」


 ワゴン車に乗るときに、俺は彩の隣に座れるんじゃないかと少しだけ期待していたが、現実はこうであった。


「泉、サービスエリアまで耐えてくれ……」


 翼さんが運転して、助手席には彩。その後ろの席に、俺と泉が座っており、荷物の様子を見ながら、もう一列後ろに田所が座っていた。


「だから、僕は酔ってなんていな、うッ」


 泉は別にお酒で酔っているわけではないのに、酒に酔っ払ったようなことを言いながら、頑なに自分が車酔いしていることを否定しようとしていて、俺はなぜかその介抱をすることになっていた。


「楓、いつもあんな部屋に引きこもってるから、車に酔うのよ」


「姉さん、違う。車酔いは三半規管からの情報と目などの情報との違いで脳が混乱することで起こるものだよ。だから僕の普段の生活習慣は全く今の状況とは関係ない……」


 泉は今の言葉が、車酔いを認めていることに気がついていないのだろうか。いつもはあれだけ頭が回るのに、今の泉はさぞからかいがいがありそうだった。


「楓さん。いつもあずちゃんのことを避けてるけど、別に嫌いなわけじゃなくて恥ずかしいからよね? そう、照れ隠しみたいな感じ?」


 と、彩がニヤついた笑みを隠しもせずにそう聞いた。手にはアナログのボイスレコーダー。なんだろう、泉対策が完璧な所に彩の本気を感じた。


「ふふ、嫌いではないよ。僕は面白いことが大好きだからね。梓くんの過度なスキンシップがなければ好ましく思っているとも」


 泉がそんなことを素の口調で言っている。というか、それって遠回しに梓の頭がおかしくて、面白いって言ってないか。兄として全く否定できないのが笑えないのだが。

 そんなことを思いながら彩を見ると、ニコッと笑ってお礼を言っていた。


「楓さん、よく聞かせて貰ったわ」


 一体、何をする気なのだろうか。俺は他人事ながら泉の今後について軽く心配しながら、高速道路の標識を見る。


「あと、数キロだから、我慢しろな」


 ずっとパソコンをいじって我慢なんてしているからこんなひどいことになるのだ。俺は、車に乗り始めて数時間経ってから、どうも泉がパソコン画面を前にピクリとも動いてないことに気がついた瞬間を思い出した。


「だから、僕は酔ってなんてッうぶ」


 本当に普段にもこれほど弱るとは言わないまでも泉はもう少し大人しくするべきだと思う。



 サービスエリアに着くと、泉は慣れた様子の翼さんに付き添われてトイレへと向かっていった。

 あの真っ青な顔を見る限り、少し時間がかかりそうだった。


「それで、彩。お前、さっきの音声、なにに使うつもりなんだ?」


 助手席でずっとパソコンを弄っていた彩が一体なにをしていたのか気になって、俺はそう尋ねた。


「フッ、聞いて見れば分かるわ」


 そう言うと、彩はノートパソコンのスペースキーを押した。


『僕は、梓くんのことが大好きだからね』


「彩、お前……」


 車の中で録音したこともあって、いい具合にノイズが乗っていたからか、その音声は不自然なほどに自然に加工されていた。


「もちろん、あずちゃんに送ったわ。見てしまえば泉さんにもどうしようもないものね」


 えげつないヨ。女の子ってえげつないヨ。俺はかなり恐怖を感じながらそう思った。


「あの、彩どの」


 と、もじもじとした様子で田所がそう言った。


「梓くんのところを田所くんに変えたバージョンも作れませぬか?」


 き、きめえ。


「いいわよ。普段から、こまめに録音しているから」


 怖いヨ。彩さんが怖いヨ。ひょっとして僕のボイスも録音されているのかしらん。


「感激いたしました。拙者、感激いたしましたぞ」


 そんな田所の言葉を聞きながら、俺は実はアナログな方法なら泉に勝つのは容易いのではないかと思って、自分でもボイスレコーダーを買おうと思い、インターネットを調べはじめた。



 泉がノックダウンすること数回、俺たちはついに茨城県の取手市にたどり着いた。


「僕はもう車に乗ることはしばらくないだろうね」


 泉は、大地に降り立つなり、感慨深そうにそう言った。一週間後に往路があることは言わないでおいてあげようと思っていると、彩が満面の笑みで言った。


「往路があるから一週間後にまた乗ることになるわね」

 

 彩がそう言うと、泉はなんだか可哀想になるくらい、しょんぼりとした雰囲気を醸し出す。


「まあ、今はそんなことを忘れて、監視カメラのある場所へ向かおうぜ」


 俺がそう言うと、翼さんが言う。


「私はホテルに車を停めてくるから、楓たちは先に向かっててちょうだい」


 翼さんはそう言い残すと車に乗って走り出す。


「さて、俺たちも行くか」


 俺がそういったところで俺たちはその場所へ向かうためにその監視カメラのあったスーパーマーケットへと歩き始めた。

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