42話 いざ、出発
鍋で一波乱あったりしたが、3日後、俺は彩とともに茨城県取手市へと向かうため、泉の仕事部屋へと向かっていた。
俺たちは軽く雑談しながら歩いていたのだが。
「傑。もう変な勘違いされないように気をつけなさい」
……あの、気をつけるのは僕じゃないと思います。
「俺よりも、不用意に顔を近づけたお前が悪いんじゃないか?」
俺がそういうと、彩は不機嫌そうに言う。
「私にそういうことをさせた傑が悪いわ」
理不尽すぎる……。
「一週間くらい泊まるわりには荷物少ないな」
俺は、もう話を変えようと、彩の軽装といった様子をみてそう言った。
「昨日、翼さんが私の家に来て、荷物を持っててくれたわよ」
「俺の荷物は持ってってくれないんだな」
俺が一週間分の荷物のきっちりと詰まったキャリーバックを横目で見ながらそう言うと、彩はニヤリと笑いながら言った。
「夜中に猛獣みたいな男子高校生の家には行きたくないって言ってたわ」
俺、猛獣ですか。そうですか。
真剣に泣いてやろうと思って彩の方を見ると、彩はこらえきれないというように笑い始めた。
「冗談よ」
「良かった。あの翼さんにそんなことを思われてなくて本当に良かった」
俺がしみじみとした気持ちでそう言うと、彩はふーんといった様子で俺のことをじろりと見る。
「あの?」
「別に」
ツンとした様子だったので聞いてみたが、彩は別にといった風に首を振る。
本当に女心は分からん。
「それで、翼さんが俺の家に寄ってくれなかったわけって聞いてるのか?」
俺が気になっていたことを尋ねると彩は納得の理由を教えてくれた。
「泉さんがあずちゃんについて来てもらいたくなったようね」
「それで、あんな太っ腹なことしてたのか……」
俺は先日、3人分の旅行券の入った封筒が梓宛に届いたことを思い出した。
「あいつ、俺と彩が一緒に行けないと見るや、大塚ちゃんと早苗さんと約束を取り付けてたしな」
中学生だけでは使えないので3人分にして大塚ちゃんと早苗さんを巻き込むあたり、泉らしい用意周到さだった。
「俺は、梓に受験対策合宿って言ったけど、彩は親になんて説明したんだ?」
「……秘密」
彩はそう俺に笑いかけながらそう言った。一体なんて説明したんだろうか、ちょっと気になる。
「彩は親にVTuberの活動してること言ってるの?」
俺がちょっと気になったことを聞くと彩はあっさりとした様子で言った。
「もちろん言ってるわよ。稼ぎすぎてもう親の扶養からも外れちゃってるし」
まあ、そうだよなあ。俺たちのチャンネル登録者だと年収103万円なんて軽く超えるし。
「やっぱり驚かれたりしたのか?」
「お母さんはあまり良くわかってなかった風だったけど、お父さんは炎上しないかビクビクしてたわ」
その言葉に俺は彩の両親を思い出した。家がとなりの幼なじみともあってよくお世話になったものだ。あのちょっと堅物そうな彩のお父さんが彩に手球に取られる様子を想像して俺は思わず笑ってしまう。
「傑の方は親に説明してるの?」
「俺の両親は海外勤務だし、そこら辺は寛容だよ。むしろもっと稼げってスタイル」
その言葉に彩は笑いながら言う。
「ちょっと想像できるかも」
彩も俺の両親の自由さを思い出しているのかもしれない。あれでいて世界でも有名なIT企業のかなり偉い地位にいるらしいから尊敬できるのだが。
「そろそろ着くわね」
彩がそう言って前を見ると、泉の仕事部屋の前にはワゴン車が停まっていた。
「来たわね。傑くんは後ろに荷物を乗っけちゃって。座席は自由に選んでね。彩ちゃんはワゴン車の中で荷物の整理。傑くんは楓が全部必要と言い張ってる機材を田所くんと運んでね。楓の骨みたいな腕じゃとても運べないから」
待ち構えていた翼さんがそうテキパキと指示を出し始めると、俺は出発のために泉の部屋から荷物を運びだすのを手伝った。




