41話 ちくわ
俺がダウンしている間に梓たちで準備してくれていたらしい。リビングのダイニングテーブルの上では既に、火の通りに時間のかかるじゃがいもや人参などが茹でられていて、みんなすでに着席していた。
「となり座るぞ」
4人掛けサイズのダイニングのドアから見て奥に早苗さんと大塚ちゃんが、そして、梓が大塚ちゃんと彩と同時に話ができるように一人どこかから椅子を持ってきて座っていた。となると、俺は早苗さんの正面で、彩の隣に座ることになるのだが。
「良いわよ。超ド・ヘンタイ」
何も言わずに座ればなにか文句を言われるんじゃないかと思って先に断ったけど、全く意味がなった。
「なあ、あれは忘れような」
女装添い寝でド・ヘンタイ。泉のイタズラに抵抗しなくて超ド・ヘンタイですか……。
超ド・編隊だったら許せるのになあ。とか考えちゃうのは俺が男の子だからだろうか。
「そうね、超までつけると流石に可愛そうだから、ド・ヘンタイに戻してあげるわ」
「あの、せめてドも外してもらえませんか。男の子的にはド・ヘンタイよりも超ド・ヘンタイの方がマシなんですよね」
俺がそう頼みこむと、彩はさっぱり分からないというように首を傾げる。
女の子に分かってたまるかよ。男の子のこだわりをね。俺がそうフェミニストが聞いたら怒られそうなことを考えながら、そう言うと、早苗さんが笑いながら言った。
「編隊モノはロマンっすよね~」
ここに男の子の気持ちが分かる女性がいた!
「早苗さんには分かるんですね。この違いが……」
「VTuberなんてニッチな仕事をやるくらいですからね。サブカルチャーには精通しているっすよ」
早苗さんはそう言ってグッっと親指を立てる。
そんなアホみたいなやり取りをしていると、梓がじゃがいもを頬いっぱいに頬張りながら口を開いた。
「あほ、あふ、あふ、あふ」
と思ったら、口に熱々のじゃがいもを突っ込みすぎて熱かっただけのようだった。
「ほら、モブ妹。私がお前にこのちくわを食わせてやろう」
そう言って、大塚ちゃんは自分の箸でぐつぐつと煮込まれているちくわを取って、梓の口の前へと運んでいる。
梓は迷うような顔で大塚ちゃんの箸とぐつぐつと煮込まれている鍋を目で交互に見る。
そして、決心したような顔でその熱々のちくわを受け入れるために口を開いた。
「あふーーーー!」
妹にとっては熱いことよりも大塚ちゃんのあーんの方が大事らしい。ちくわの外側と内側それぞれで熱せられた凶悪な熱さに梓が悶ているのを俺は放っておくことに決めて彩に詰め寄った。
「色々反省した。間違って着替えを覗いたことも、泉に添い寝してもらったこともそれに抵抗しなかったことも反省した」
俺がその反省の弁を彩に言うと、ニヤニヤした様子の早苗さんが言った。
「三角関係の中では傑くんと彩ちゃんが一歩リードっすかねぇ」
と、泉が男の娘だと知らない早苗さんが余計なツッコミを入れてきた。それに対して目尻に涙を浮かべて赤面した彩が早苗さんの方を見ると、早苗さんはあっけらかんとした様子で。
「どうぞ、続けてくださいっす。いや~眼福眼福」
とのたまった。
「傑」
「はい」
俺が背中に汗を感じながら返事をすると。
「ヘンタイ」
「はい」
「ヘンタイ」
「はい」
「ヘンタイ」
「はい?」
彩が同じ言葉しか繰り返さないのでどれだけ彩が怒っているのか怖くなって彩の方を見ると、真っ赤な顔でただヘンタイと繰り返していた。
これは、過去一でお怒りでいらっしゃるのではないだろうか……。
「彩ちゃん! 今度こそは聞かせてもらうよ。さっきお兄ちゃんとあんなに顔を接近させてナニをしようとしてたのカナ?」
うちの妹の頭はやっぱりニワトリと同じらしい。どうしてこの状況でそんなことを言えるのだろうか。
彩はお椀にとった人参をパクリと食べると、言った。
「なにもしてない。分かったあずちゃん?」
なんだろう。この有無を言わさずという感じ、しかしそんなのうちの妹には効かなかった。
「じゃあ、今度泊まりに行った時に聞き出しちゃうもんね!」
「いや~君たちを見ているのは退屈しないっすね~」
俺は早苗さんの声を聞きながら、どうしてこうなるんだと心の中で頭を抱えた。




