37話 システム監視中
「あたらないですなあ」
「だな」
なんだかんだ美鈴咲の毎日の配信の動画を撮り終えると俺は解析結果を確認するために毎日のように泉の作業部屋に入り浸るようになっていた。
そして、先程の俺たちのセリフが防犯カメラの映像を延々と眺めている時の俺と田所の様子である。
「君たち、仮に見つかればシステムが通知してくれるから別に監視している必要はないぞ」
呆れた目つきでちらりと泉がこちらを見る。
「それは分かってるんだけどな」
「そうでありますけどなー」
俺たちはそう無気力に返す。
驚く事に泉が2日で仕上げたシステムを前に俺たちはすでに一週間も座り込んでいた。
3日目くらいまでは希望に満ち溢れていた田所の瞳がすでに死んだ魚のような目になっているのも無理はなかった。
「ずっとパソコンの前にいる僕が言うのもおかしな話だが、健康に悪いぞ」
そう言っている泉の瞳は俺たち以上に死んだ魚の目していた。いつもの透き通るような瞳が嘘のようである。泉は何やら例の老化データの調整作業に連日徹夜で挑んでいるらしい。
「泉こそ、なかなか不健康そうな目をしてるぞ。ほら見ろ」
俺は手元で片手間に編集作業を行っていたノートパソコンのウェブカメラで泉を映した。
「ふふ、いいかい? 天才にはショートスリーパーが多いんだよ」
泉はそう言うとニヒルに笑う。全く目が笑ってないのが逆に怖かった。
というか、いつもは人で遊んでるくせに意外に義理堅いというか優しいところがあるようだった。
そんなことを思っていると、部屋のドアが開いて外の生暖かい空気が入ってきた。自分でも気づかないうちにこのおかしな室温に慣れ始めていたらしい。
「ちょっと、楓。ちゃんと寝るように言ったでしょ」
と、手に買い物袋を持った翼さんと彩が入ってきた。
「ふふ、僕はショートスリーパーだからね」
「だ ま れ」
翼さんは優しくそう言うと、泉の耳たぶを引っ張った。
「いでで」
なんとも面白いことにあの泉が翼さんにいいように扱われていた。そして、そんな様子を彩がとても清々しい顔で眺めている。……ホントにいい性格してますね。彩さん。
「全く、傑もちゃんと寝たら? あなたもひどい顔してるわ」
と、いきなり彩が俺の顔を見てそう言ってきた。
「そうか? 泉ほどではないと思うけど」
俺がそう答えると、翼さんが思いついたように言った。
「ふたりとも、隣の部屋で寝てきなさい」
翼さんがお姉さんらしくそう言ってきた。
「でも、布団ないでしょ」
俺がそう言うと、翼さんはとても魅力的な笑みで言った。
「私が泊まるときに使うための布団使っていいわよ」
俺はその言葉に思わず。
「ぜひ寝かせてもらいます」
と、答えてしまった。そう答えてしまってから彩も一緒なことを思い出しゴミを見る目で見られていると思って、恐る恐る彩のほうを見てみると、なにやら翼さんが彩に耳打ちしていた。
「何を話しているんです?」
俺が少し恐ろしくなってそう尋ねると。
「なんでもないわ。ヘンタイ」
彩はなぜか機嫌よさそうにそう言ってきた。
一体何を聞いたというのだろうか、彩が笑うと怖いのだが。
そんな事を思いながらも俺は瞼を擦る泉とともに隣の部屋へと向かっていく。
頭を一回リフレッシュしたほうが、効率は良いからな。うん。
田所が拙者は!? とか喚いていたような気がしないでもなかったが俺は聞こえなかったことにした。




