36話 炎上は止まらない
昨日の話し合いのあと、セーラちゃんこと大塚ちゃんは、泉にアドバイスを貰いながら、例の炎上に関する声明動画を撮影して自身のチャンネルに投稿した。
当初は、擁護とアンチの割合が半々いった様相であったのだが、ゴシップ系youtuberなどが面白おかしく、有る事無い事関係なしに取り上げたことで炎上はさらに燃え広がった。
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次の日、泉は対策を練るためにネットに比較的詳しい、俺と田所、そして翼さんを自室に呼び込んだ。
「想像はしていたけれど、ここまで酷いとはね。人間の醜さというのは際限ないよ」
泉はそう言って、セーラちゃんのチャンネルのコメント欄を俺たちに見せてきた。
「早苗さんには大塚くんにコメント欄を見せないようにと指示を出しておいたけれど、それで良かったようだね」
泉の言うとおり、炎上に際して声明を出したセーラちゃんのチャンネルのコメント欄は文字を起こすのが憚れるほどの書かれようで、一部の声明を出したことを好意的に受け止めた視聴者さんのコメントがぱっと見で見つからない程だった。
「大塚ちゃんがお前らになにか直接酷いことをしたとでも思ってるのか?」
俺はその好き勝手に書かれたコメントをみて思わずそう言葉を漏らしていた。
「こういった場合にこういったコメントをする輩はね、勝手な正義感だったり、周りの意見に流されたりで思慮の浅い連中だと思うわ。要は、匿名を良いことに自分が普段、発散することの出来ない欲求を満たすような救いようもない連中なの」
翼さんはそう言って、悔しそうに手を強く握る。
「コメント欄を閉鎖した方が良かったのでは?」
田所はなんだか、いつもよりも小さな声でそう言って泉に尋ねた。
「それも考えたけどね。この場合まだ自分たちで管理できるチャンネルのコメント欄を開放した方が良いと判断したのさ。ほらこうやって」
すると泉はコメント欄から問題のあるコメントを削除した。
「悪質なものに関しては僕の知り合いのネットトラブルに強い弁護士に既に相談済みだよ。今日、会社のホームページ上でも告知を行った」
泉はそう言うと、しかしと続ける。
「仮にこれで炎上が沈静化したとしてもこれだけイメージが傷ついたとなると、先はかなり厳しいだろうね」
「なあ、泉。元々の原因は犬を蹴っちゃったことなんだろ。犬の飼い主に事情を話して、過去の出来事で大塚ちゃんは悪くないことを話して貰えないかな? テレビ局お願いするでもいいからさ」
俺が頭に思い浮かんだことを泉に尋ねると。
「僕もその線でどうかは考えたよ。だから早苗さんにお願いしてテレビ局の当時の番組担当者とも話したけれど、犬の飼い主の情報は残っていないそうだよ。それにテレビ局から大塚ちゃんの行動に問題なかったことを発表することは大丈夫だと言われたけどね。テレビ局との癒着が疑われている最中に発表を行うのはリスクが高い可能性があるとも言われたのさ」
泉はそう言って悩ましげに唸る。
「犬の飼い主が分かれば一番なんだけどね」
翼さんもそう言って頭を悩ませた。
「泉殿。拙者のパソコンのデータを破壊したように、全国の防犯カメラに侵入して、過去のテレビ映像にちらりと写った犬の飼い主の顔から現在の住所を割り出したりはできないのでしょうか?」
すると、泉は少し考えたあとに。
「第一に犯罪だね、それに僕のスキル持ってしても最新のセキュリティパッチを当てられたシステムに侵入することは難しい。それにそれだけのマシンパワーを運用することも、コンピュータで現在の顔を推定したとしてもそれが予想から外れていることも考えられる」
泉はそこで言葉を切ると。
「しかし、当時の収録現場周辺に場所を絞った上で、侵入可能な監視カメラすべてを駆使すれば、宝くじ当たるような可能性くらいで飼い主を特定できるかもしれない」
そこで泉はニヤリと笑うと。
「それに、バレなきゃ犯罪じゃないのさ。僕は痕跡を残すようなポカをやらかすようなハッカーじゃないからね」
その、泉の笑みは敵に回せば恐ろしいが、味方につければこれほど頼もしい人はいないんじゃないかと思うような笑みで。
俺たちは、炎上騒動後に初めて笑った気がした。
「大塚ちゃんと早苗さんに悟られないように解決してやろうじゃないか」
泉は付け加えるようにそう言った。
「そっちの方がカッコイイじゃないか」
泉の言葉に、俺たちはあの口汚いJCに再び笑みを取り戻すために動き始めた。
ちなみに、防犯カメラを初期設定で使っていたり、セキュリティパッチが出ているのに適切に当てたりしてないと、本当に覗き見されます。
そういった監視カメラの映像をライブ配信しているサイトがあったりするのでインターネットに繋がるタイプのカメラの管理は厳重に。




