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35話 セーラちゃん、炎上する。

 はじめにそれに気がついたのは田所だった。

 放課後に美鈴咲のキャラソンについて打ち合わせるために泉の部屋に入っていくと、田所がなにやら泉に話しかけている現場に遭遇した。


「どうしたんだ?」


 俺がそう尋ねると、田所はそれがなんですけどもと続ける。


「どうも、拙者がSNSを巡回してみつけたんですが、セーラちゃんの中身が元子役の大塚あやねということに気がついた人がいるみたいなんですよね」


 そう言うと、田所はモニターアームに付いたディスプレイを引き出すと俺と泉に見やすいように持ってくる。


「ほら、断定する感じではなくて、似てるかもといった風にですが、歌うときの語尾とか歌い方の癖なんかを指摘する感じで」


 田所がそう言うと、泉はふむとうなずくと言う。


「こういうのは僕らが下手に手を出すと余計に勘ぐられて事態を悪くしかねないからね。今の所、静観するべきだね」


 俺も泉に賛成だった。大抵の場合において最もいい対抗手段は放置だと思う。


「とりあえず、注意喚起ということで、みんなには僕からメールを送っておくよ」


 泉はそう言うと、俺との打ち合わせを始めた。



 次の日、事態はさらに悪いことになっていた。


「これは、ひどいな」


 次の日、SNSフォロワー数の多いアカウントが例のツイートをリツイートしたことで事態はさらに悪くなっていた。そこから芋づる式のように大塚あやねとの共通点探しをするアカウントが急増したのだ。

 そして、事情を知りもしない無責任なアカウントが元子役の大塚あやねとテレビ局との関係を勘ぐるようなツイートをしたことをきっかけにセーラちゃんのアカウントは大炎上へと発展することになった。


「気にするなって言っても無理だよな」


 泉のプレハブスタジオへとメタガラスメンバー全員に集合がかけられたため、スタジオに入ると、泣きはらしたのか目の周りを真っ赤に腫らした大塚ちゃんが、難しそうな顔をした早苗さんの横に立っていた。


「声変わりまで待って、やっと歌手になりたいって夢を叶えられるって思ったのに……」


 大塚ちゃんはそう悲痛そうに言った。

 俺と一緒にやってきた梓もさすがにかける言葉がないのか、どうしようと俺と大塚ちゃんを交互に見た。そして、誰も声を出せない中、泉が言葉を発した。


「はじめは静観しようと思っていたけど、ここまで事態が大きくなっちゃうと会社としても何かしらの発表が必要になっちゃうね」


 緊急事態に女装姿はどうかと思われるかもしれないが、この場合、いたずらに混乱が広がると判断したのだろう、泉はいつもどおりの女装姿でそう言った。


「会社として取れる選択肢は2つだと思うな。1つに元子役の大塚あやねとセーラちゃんに関係はなく、テレビ局との癒着はないと発表する。2つに大塚あやねとセーラちゃんの関係を事実と認めた上で、テレビ局との癒着は否定して発表する。大塚ちゃんはどっちがいい?」


 泉は選択肢を2つ用意した上で、その引き込まれそうな透き通った瞳を大塚ちゃんの保護者の早苗さんではなく、大塚ちゃん本人に向けて尋ねる。


「わだぢ、ファンの人に嘘はつきたくないッ」


 大塚ちゃんにとって覚悟のいる言葉だったのだろう。大塚ちゃんはそう、涙に言葉を震わせて言い切った。


「それなら、私は大塚ちゃんのやりたいように協力を惜しまないよ。そして私はメタガラスのメンバーに大塚ちゃんに協力しないような人を入れた覚えもない」


 泉がいつものニヒルなノーマル泉だったら言わなそうな言葉を発すると、俺たちメタガラスメンバーはしっかりと頷いた。


「みんな、ありがどう」


 その涙でぐちゃぐちゃの大塚ちゃんの顔に俺は、このまま大塚ちゃんを表舞台から追放させてたまるかと強く思った。

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