34話 セーラちゃん、テレビ出演する。
「さて、俺達はこの部屋で観るとね」
俺は泉と田所とともに泉のパソコン部屋で大塚ちゃんのテレビ出演を見ることになっていた。
「君はどうも大塚くんと一緒にいると喧嘩をしないという選択肢が頭から消えるようだからね。さすがにテレビ生出演となると一緒にいてもらうことはやめておくよ」
それを言えば、梓こそ大塚ちゃんから離さなければいけない人物だと思うのだが、しかし、泉は自分の保身のために梓をプレハブスタジオへと追いやっていた。
梓、大丈夫かな。俺は妹の鶏頭を思い出し、ため息をつく。
「拙者はこのパソコンでSNSをリアルタイム監視するという仕事がありますからな。現場も見てみたかったですなあ」
田所はそう言って、泉の隣のデスクでパソコンの画面を睨みつけるように見ている。
泉は男しかいないからか、なんだか高校では毎日見ているはずなのに逆に違和感を感じる男装姿……じゃねえや、真の姿? で田所に話しかけた。
「田所くん、君のことは頼りにしているよ」
語尾に雑用係としてという言葉が隠れているような気しかしなかったが、田所は鼻息荒く答える。
「拙者、泉さんのためならいくらでも頑張れますぞ。そこで……よければそのお姿でもたーくんと呼んでもらえると拙者、もっと頑張れると思うので」
田所がそう顔を赤らめて言うと。
「たーくん、頑張って!」
泉がガチ恋泉の声音でそう言った。
田所……。お前本当にそれでいいのか?
俺たちがそんな他愛もない話をしていると、ついに朝の情報番組の今週の話題コーナにセーラちゃんこと大塚ちゃんが出てきた。今回はサポートとして彩もチチちゃんとして出演している。
「えーっと今週デビューした新人VTuberということでセーラちゃんと、同じ事務所の先輩のチチちゃんにやってきてもらいました!」
朝にお馴染みの司会者がそう言うと、セーラちゃんとチチちゃんが挨拶をする。
「どうも、セーラと言います。今日は歌を披露させてもらえるということで出演させていただきます」
「チチです。今日はセーラちゃんのサポートということで一緒に出演させていただきます」
セーラちゃんこと大塚ちゃんはさすが元子役といった風に、いつもの口の悪さを感じさせない挨拶を。
チチちゃんこと彩はそれこそ、いつものクール系毒舌はどこへいったやら、とっても魅力的なロリボイスで挨拶をした。
「どうもどうも、いやーすごいですね。そちらの事務所の社長さんの烏城さんが開発したという空間プロジェクターで映し出された3Dの体でまさにお二人がスタジオにいるかのように体を映し出されています」
そう言って、司会者は烏城の名前を出して、紹介した。ちらりと見ると泉がニヤリとしていたのでどうも売名のために泉がぶっ込んだらしい。ちゃっかりしていることですね。
「お、どうもお二人が有名になったという話題の動画があるとのことで一回、その映像を見てもらいましょうか」
司会者の言葉で画面が切り替わると、俺の分身である美鈴咲にセーラちゃんが突っ込んでいき、そのまま背中を踏んづけて歌いきったあの映像がダイジェストで全国ネットに流された。本当にこれ流していいのか? テレビ局さん。
「んがー! 私はこの映像を流すなんて聞いてないぞ!」
スタジオに映像が戻った瞬間、なぜか床に倒れ込んだセーラちゃんがそう喚いている様子がスタジオに映し出された。
「えーっと今、これ言っちゃっていいのかな。暴れるセーラちゃんをうちのスタッフが押さえつけてこんなことになってます……」
絶対笑ってる。俺は分かる。彩は今、絶対笑ってる! そんなことを思いながら横の泉を見ると、もう耐えられないというように頭を天板に打ち付けながら笑っていて、司会の人も失笑といった風にへんなツボにはいったようで変な声を漏らしている。
「すごい、すごいでござるよ。急上昇ワードに乗りもうした!」
田所はパソコン画面をみてそう叫んだ。
「これ、どうすんだろ」
俺はテレビ局の進行の人を思いながらそう言葉を漏らした。
*
「それでは落ち着いたようですので」
チチちゃんと司会者の懸命なVTuber関連の質問などでの尺稼ぎによって落ち着きを取り戻したセーラちゃんは、本当のところは分からないけれどもちょっとばかり肩をしょんぼりさせた様子で一人スタジオの真ん中に立っている。チチちゃんは器用にもスタジオの出演者と並んで椅子に座っており泉の技術力の高さが伺わせられた。
「それではボカロPでも有名な烏城さんの作詞作曲で『少女セーラ』です」
キャラと同じ名前をつけられた曲を大塚ちゃんはあの口の悪い中学生と同一人物とは思えない透き通った声で歌いきった。
「いやー素晴らしかったですね」
司会者の言葉に、スタジオにゲストとして呼ばれていた芸能人たちもうなずいている。
大御所と呼ばれる歌手もしっかりとうなずいているのが印象的だった。
「では、今日はそろそろお時間ということで、次はうちの歌番組にでも」
司会者の冗談風の言葉とともに番組は〆られた。
*
「SNSの評判も上々、一部では炎上芸みたいな風にネタにされてはおりますが、これも好意的なネタがほとんどですな」
SNSを巡回していた田所はそう泉に言った。
「ふふ、上々だね。では僕も大塚くんを労うためにプレハブ小屋に向かうか」
そう言うと、泉は服を脱ぎだした。
「せ、拙者はちょっと隣の部屋に忘れ物を」
初めて会ったときはスカートを捲って確認するとか言ってたくせに、随分と小心者なことで。
……俺といえば、高校生活と付き合いの長さでちょっとだけ耐性がついているので、同じ部屋で後ろを向くだけで泉の着替えに耐えきった。
このときは、炎上芸が本当の炎上になるなんて思ってなかったのだ。




