33話 バズったのだが
「バズりましたっすね」
「バズったな」
次の日、再び泉のプレハブスタジオに集められた俺達は昨日の配信のアーカイブ画面を前にそう言った。
「再生回数、1000万回超え、配信を行った企業公式アカウントをはじめ、各々のチャンネル登録者数も伸びたしね。上々だね! すーくん!」
「それで、泉。今日はどうしてわざわざみんなを集めたんだ?」
俺はすーくん呼びのガチ恋泉を努めて無視するようにそう尋ねた。
すると、泉は大塚ちゃんの方を見て言った。
「テレビ局から出演のオファーが来ました! 全国ネットだよ!」
泉がそう言うと、早苗さんはマジっすかと驚きの声を上げ、大塚ちゃんも喜びの声を上げると思いきや。
「お、おい。どうして泣くんだよ……」
俺がそう尋ね、彩が心配そうに大塚ちゃんの背中を撫でる。
「な、泣いでねえぢ」
「お、おう」
妹が泣いたのなんて何年も前だし、それ以外の女子が泣いてるところに出くわすことなんてそうそうなかった。つまり、女の子が泣いたとき、どうしたらいいか全く分からない。
彩が呆れたように俺を見たあとに大塚ちゃんに尋ねた。
「嬉しいんだよね」
「う、うれぢい。もう、テレビに出れることなんてないと思っでだ」
「あーもう、鼻をかめ。鼻を」
俺はポケットティッシュを取り出すと大塚ちゃんの鼻に当てた。
「ぢぃー」
「うわ、汚え。自分でかめよ!」
俺が鼻にティッシュを当てた瞬間、大塚ちゃんが勢いよく鼻をかんだ。
ジト目で大塚ちゃんを見ると、先程の泣き顔が嘘のように笑っている。
「へ、モブ顔。ざまーみやがれ!」
俺はなにか仕返してやろうかと思い、言い返す。
「お前、俺は有言実行する男だからな。だから昨日もひっでえ紹介してやったからな。次はなにをしてやろうか」
俺がニヤリと大塚ちゃんに笑いかけると、昨日の怒りが再び湧き上がったのか、大塚ちゃんが暴れ始める。
「梓、パス」
俺はすかさず暇そうにしていた梓と大塚ちゃんを押さえつける役を変わる。
「モブ妹! 離せ! 私はこいつにやり返さないといけないんだ!」
「癇癪持ちの大塚ちゃん可愛すぎる!」
どうも、アホの行動原理は分からん。
*
「じゃ、テレビ局との交渉は翼さんに任せていいってことっすね」
軽く打ち合わせをしたあと、早苗さんは確認をとるように翼さんに尋ねた。
「そうですね。私がテレビ局と打ち合わせしておくので、あとで資料を大塚ちゃんと、」
そう言って、翼さんは現在進行系で梓と揉み合いをしている大塚ちゃんを見て、
「……一応、早苗さんにも送りますね」
「ええ、お願いするっす」
早苗さんは若干恥ずかしそうに、答える。
「それで、このスタジオから中継することになると思いますので、またこちらにいらしてください」
翼さんがそう説明したところで、下僕な雑用をしている所ばかり見て、久しぶりに声を聞いた気がする田所が挙手をして、言った。
「拙者、一応。メタガラスのPR担当社員ということで、SNSなんかで情報発信なんかをやらせてもらってますが」
そうなのか、あの妙にレスの早いことでファンに認知されている公式アカウントは田所が管理していたのか、てっきり泉が開発した超高性能なボットのようなものなんだと思っていた。
「こういう仕事をしていると、情報に敏感になるというか」
田所がそう歯切れ悪く言うものだから、泉がガチ恋泉で尋ねた。
「それでたーくんは、なにが言いたいの?」
泉が優しく尋ねると、
「た、たーくんですと……拙者をたーくん呼びですと!?」
田所が歓喜に震え始めた。
「もう一度、お願いします」
田所が紳士ぶってそう言った。
おい、泉は男だぞ!?
「たーくん、どうしたの?」
すると、田所は元から不足していた頭のネジがさらに不足したのか、顔を真っ赤に染めて、早口になって説明を始めた。
「ネット上で社長VTuberデビュー不可避ってコメントが沢山あったので、社長が開発した3Dモデラーソフトで作成したキャラクターを、社長キャラ(会社非公認)と銘打って、銀髪狼少女の設定で投稿したら、社長公認不可避といった風に、いい感じにバズってしまい」
怒られると思っているのか、田所はそう早口で言い切った。
俺は、分かるぞ。こういうときの泉はと思い、実際想像通りの返事が返ってきた。
「ふふ、いいよ。たーくん。お手柄だよ。私は烏城の名前が売れるようなことならなんでも大歓迎だから」
前は、僕の声には俺の声ほど需要はないと泉は言っていたけども、俺が聞く限り、泉のハスキーボイスはすげー需要があるんじゃないかと思った。
「メタガラス、躍進の時だね」
泉の声に彩が一人小さく、
「おー」
と言って、他の人が何も言わないことに恥ずかしそうに頬を染めた。
なんだよ。可愛い所あるじゃん。俺をヘンタイ呼びするけどさ。




