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30話 泉さんはそばが好き

 そば屋につくと、私達は4人がけのボックス席に案内された。すると、泉さんと大塚ちゃんは二人でして、急ぐように店の奥側の席に腰掛ける。

 そうか、泉さんたちはそんなにそばが好きなんだ!

 私はそう思いながら、入り口側の席に翼さんと並んで腰掛けた。奥側の、大塚ちゃんの前の席である。


「くッ」


 すると、大塚ちゃんは真っ赤な顔で泉さんを見る。お、もしかして泉さんみたいな可愛い子が横にいて照れてるのかなと思い、ここは泉さんにアタックしている身として、私が正面に行かねばと考え直す。


「ねえ、翼さん。席入れ替わらない?」


 私がそう尋ねると、翼さんは面白そうに泉さんの方を見て、言う。


「もちろん、良いわよ」


 すると、今度は珍しく真っ赤に顔を染めて、泉さんが翼さんを小さく睨んだ。

 これは、女の子に挟まれて照れてるな~。


「泉さんの隣だね」


 私がそう話しかけると泉さんはすました顔に戻ると言った。


「そうだね」


 そして、どこか嬉しそうな顔の大塚ちゃんが、


「早く注文しちゃお」


 と言ったので私達はそばを注文した。



「わーうまそうだな!」


 そう言った大塚ちゃんの目の前には湯気ののぼるつゆや野菜の入った鍋が用意されていた。

 そこにそばを入れて食べるということだった。地元民なのにお店の人に説明を聞くまで全く食べ方を知らなかった。


「ほら、やけどしないようにね」


 翼さんがお姉さんらしくそう言って注意するもすでにお椀にそばを取った大塚ちゃんは口いっぱいにそばを詰め込んで、


「ほほほ」


 と、謎の音を発していた。そんな様子を泉さんは横目で見ると、食べ慣れているのか、そばをお椀にとると、髪を耳にかけてふーと息を吹きかけた。


「いやーフェチだよ」


 私が思わずそう言うと、泉さんは狙っていたのか、もともとの性格であるいたずら好きを少し表に出して私にニヤリと笑いかける。本当に魅力的な笑みだった。


「ふー」


 私も真似して髪を耳にかけると、そう息を吹きかけて、パクリとそばを食べる。そしてそんな様子を見て、泉さんは慌てたように目をそらすとそばを頬張った。可愛いなあ。もっといじめたくなっちゃうね!


「ねえ、泉さん。私この山菜嫌いなの……」


 私はしおらしくそう言うと、山菜を自分の箸でとると泉さんの口の前へ持っていく。


「ねえ、食べて?」


 私が精一杯の魅力的な表情でそう言うと、泉さんは慌てたように言った。


「ほんとに私が」


 ふふ、()()女の子同士なんだよ! このくらい友達なら当然。

 私は山菜を泉さんの口に突っ込んだ。


「ふが」


 泉さんは山菜を飲み込むと目尻に涙を浮かべて言った。


「今度は頑張って自分で食べよ?」


「分かったよ。泉さん」


 私は目標を達成したと、もともと嫌いでもなんでもない山菜をパクリと食べる。

 泉さんは、女装であることを知らない大塚ちゃんがいるため表立って抗議できないのか、何も言わない。

 そんな風に私は泉さんや、大塚ちゃん、翼さんと親睦を深めながらそばを楽しむのでありました。



 家に帰って、みんなと別れた私は満ち足りた気分で自室に入った。

 すると、泉さんからお兄ちゃん、そして私へと持ち主が変わっていったタブレットに通知が来ていることに気がついた。


「なんだろ」


 通知をタップすると、チャットアプリに見知らぬ人から画像が届いていた。


「あ! 私の寝顔!」


 そこにはタブレットの前で寝落ちして、机の上によだれを垂らしている私の顔が写っていた。そして、よく見ると、その下に文言も送られていることに気づく。


『機械を通して抽出した写真だから君のことを四六時中監視しているわけではないよ。ただ、僕を怒らせると大変なことになると警告はさせてもらうよ』


 泉さんからだ!


「これで、泉さんの連絡先をゲットしちゃったもんね!」


 私は、そう言うとカメラを起動して、上アングルで写真を撮って、泉さんに送信する。

 すると数秒後に。


「ぼくにじぇんな写真を送るま!」

 

 と、なにやら焦って打ったようなメッセージが送られてくる。

 

 ふふ、私が泉さんを落とす日は遠くないね。

 私はそうひとりごちた。

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