27話 遊んでいいのは遊ばれる覚悟のあるやつだけだ
「早苗さん。結構頭が切れるようですね」
みんなで大塚ちゃんが梓に連れ去られるのを温かい目で見守ったあと、泉はそう早苗さんに話しかけた。
「なんのことです?」
すっとぼけた風に早苗さんが聞き返すと、泉は言った。
「大塚ちゃんの歌手になりたいという夢を叶えるためにVの活動を始めたって言ってたじゃないですか」
「そうっすね。でもそれでなんで頭が切れるという結論になったんっすか? 別に褒められるのは嬉しいっすけど」
早苗さんが答えると、泉は、清楚スタイルを崩さぬままどこか理知的な声音で答えた。
「そう判断した理由をあげるなれば、炎上事件から大塚ちゃんの声変わりまで耐え忍ぶことを選んだ判断力や、ボカロPである私に楽曲提供してもらうツテを作るために、すーくんに接近することを画策したりなんかは結構頭がよくないとできない選択だと思いますよ」
泉がそう言うと、早苗さんはでもと続ける。
「画策もなにも、普通にTwitterでコラボの依頼しただけっすよ」
「美鈴咲のアカウントのフォロー欄に唯一存在するVTuberであるチチちゃんに、先にコラボを持ちかけておいたのも業界経験からですかね?」
泉がそう聞くと、早苗さんはこりゃ負けたと笑う。
「そうっすよ。事務所未所属だと個人勢とも企業勢ともコラボの機会があるっすからね。美鈴咲がコラボを断りまくってるっていう噂は聞き及んでましたとも」
そこで、早苗さんは言葉を切ると、静かに話を聞いていた俺と彩の方を見る。
「ほとんど無理だと思ってコラボの打診をしたら、即OKをもらえたから驚いたっすよ。それほどチチちゃんが好きなのか! ってね。それが、実際の打ち合わせのときは、逆というか、彩さんが傑くんのことをって感じだったのがなんとも初々しくて、お姉さんキュンキュンしちゃったっすね」
早苗さんは俺の方を向きながら、彩をチラチラ見て、そう言った。
……彩が俺に初々しい気持ちを抱いていたとは一体、この小さいお姉さんはあの時、別次元にでもいたのだろうか?
そう思い、彩の方を見ると、怒りをこらえてるのか、顔を真っ赤に染めながら、プルプルと拳を握っていた。
「こっち見るな」
ほら、怒られた。これが初々しい気持ちを抱いているときの行動だとしたら、女心は一生分からないね。そう思い、泉を見ると、小さく体を震わせていた。
察するに、自分の目論見通りに早苗さんをけしかけて、俺と彩のやり取りを見て遊んでいるのだろう。
「全然関係ない話になるんですけど、翼さん、妹の梓が楓さんと仲良くしたいっていつも言ってるので、良かったら間を取り持ってあげてください」
俺はやられてばかりでいられるかと、わざとらしく突然に、ガチ恋泉である今なら断れないという確信をもって、泉が苦手とするうちのおバカな妹を送り込むことにした。
「私からもお願いします。あずちゃんとはよく遊んでますがよく楓さんに避けられてるって愚痴ってましたから」
彩もなにか思うところがあったのか、助太刀をしてきた。
「そうね。私が責任を持って仲を取り持つわ。ね、楓。梓ちゃんと食事にでも行きましょう。私も一緒に行くから」
翼さんもそう言って俺の発言に乗ってきた。
「おっ、いいっすね~。このくらいの年の友情は一生モンっすよ!」
そしてこちらは助太刀というより素の反応で泉の背中を押す早苗さん。
「そうですね。お友達は多いほうがいいですから」
努めて笑顔をキープする泉に俺と彩と翼さんは三人で悪い笑みを浮かべた。人で遊べば自分で遊ばれる。それを泉は理解するべきだ。と我ながら意味の分からんことを考えながら、泉に対する切り札が妹とは、なんとも情けないなと、ちょっとだけ思った。
サブタイトルに追放って入れたら、一日の新規ブクマ数が過去最高を更新しました(5人)笑
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