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26話 追放

「それが、炎上事件が起きて、芸能界から追放されちゃったんですよね」


 そう早苗さんが言うと、大塚ちゃんは居心地が悪そうにひとり別の方向を見ていた。


「えっと、具体的にどんなことがあったんです?」


 俺がそう尋ねると早苗さんは、真面目な顔で言った。


「犬っすね」


 犬?

 困惑して早苗さんを見返すと、その間にネットで調べたのか、モバイルノートを取り出した泉がテーブルの上で画面を見せた。


【『父になりたい』で大人気の子役、大塚あやね。生放送中に犬を蹴り上げて芸能界から追放されるwww】


 その掲示板の転載と思われる記事には大まかな出来事の流れが記されていた。


「屋外ロケ中に、散歩をしていたと思われる犬が飼い主の静止を振り切って突進してきたのを蹴って追い払ってしまったところで中継が途絶えたと」


 俺が、事件のあらましを述べて、大塚ちゃんの方を見ると。


「犬は本当に無理なの」


 しょんぼりした風に大塚ちゃんは言った。


「それで、ネット上は大炎上。テレビも表立ってはいないけど、起用を控えて現在にというわけっすね。ひとつ言い訳させてもらえれば、大塚ちゃんの犬嫌いはマジなんすよ。中継が中断したあと、ずっと泣き続けて大変だったんですから」


 その、どうしようもない理由に俺は、どうするのかと泉の方を見た。


「そうなんですね。それで現場にいたような話をしていますが、早苗さんは業界関係者なんです?」


 泉は、清楚スタイルを崩さぬまま、そう聞いた。


「制作下請け会社に勤めてたんすよね。それでこの子の担当になったんです。親戚でもありますし」


 泉はうなずくと言った。


「私は、所属を認めてもいいと思います。どうでしょう? 社長?」


 泉は、そう言って隣で今まで無言で状況を見守っていた翼さんに尋ねた。

 俺は思わず突っ込んだ。


「おい、泉。お前が社長じゃなかったのかよ……」


「高校生が社長じゃ、信用ないじゃない?」


 性別や見た目ですら信用ならない世界なら、今更高校生社長ぐらいじゃ関係ないとは思ったが、一般的には至極当然の意見だったので俺はため息をつくに留めた。


「私は、()()()さんの意見に従います」


 その皮肉めいた言葉に、泉は満面の笑みでうなずいた。



 その後、涙子おねえさんの加入発表コラボの打ち合わせと、新ライバー発表会の打ち合わせを行った。そして、俺は思い出したように大塚ちゃんに尋ねた。


「それで、気になってたんだけど、大塚ちゃんはいくつなの?」


 俺が思わず幼い子に聞くような口調で聞いたからなのか、大塚ちゃんはツンケとした態度で言う。


「そこのモブ顔の妹と同じ年だよ。モブ顔」


 モブ顔についてはもう突っ込むまい。

 俺がそう心に誓っていると、ずっと発言機会がなく、退屈そうにしていた梓が元気を取り戻して、大塚ちゃんに詰め寄った。


「私と同い年なの!? 私の部屋で遊ぼうよ!」


 どうも小学生レベルの頭をお持ちの中学生である我が妹が、小学生レベルの体をお持ちの中学生である大塚ちゃんを連行している様子が観察できた。


「あ、おいやめろ! 引っ張るな!」


 悲しいかな、来年高校生になり、図体だけは立派になった妹を拒めるだけの力は彼女にはなかった。

 俺たちはなんだか、微笑ましいものを見る目でそれを暖かく見守っていた。


「この、モブ顔! お前が年を聞いたからだぞ!」


 そのツッコミは聞かなかったことにした。

追放ってタイトルにあるとブクマが増える時代は終わったのかしら?

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