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25話 モブ顔

 泉がリビングに入っていったのに続いて、俺もリビングに入ると、涙子おねえさんこと早苗さんが、驚きの声を上げた。


「あ、三角関係の!?」


 うんうん、実際の烏城を見れば、そりゃ驚くよね――え? 三角関係……?

 泉も流石に予測外だったのか、よそ行きの笑みのまま数秒フリーズする。


「あの、早苗さん。三角関係とは?」


 俺がそう尋ねると、早苗さんはもういいかと言うように、苦笑いを浮かべるととても簡単な理由を語った。


「いやー、例の東京のカフェでやった打ち合わせのとき、なんか、チチさんと美鈴さんちょっと不自然な感じだったでしょ? それで気になって解散したあと、人混みに紛れて、見てたんすよね」


 嘘だろ……。


「そしたら、美鈴咲さんの中身が実は妹さんじゃなくてお兄さんだったことも、どうもお兄さんと烏城さんとチチさんでなにやら難しい関係だということも目撃してしまいまして。ハハハ」


 そう言って、早苗さんは一人で笑う。すでに場の空気はなんとも言えぬ、微妙なものとなっていた。


「いえ、私と、傑は難しい関係ではないです。ただ、家が隣の幼馴染というだけで」

 

 彩はそう冷静な口調で説明した。というか、今説明するべきはそこなのか。


「つまり、あらかた事情は知っていると」


 俺が確認するようにそう聞くと、早苗さんはそうっすねとうなずく。


「でも一つ知らないことがあるんですょ」


 また、面倒くさい事態にならないように。

 そう思って、俺が泉の秘密をバラそうとすると、場の数人のスマホが同時に着信音を鳴らした。

 普段なら、会話中にでることはないのだが、こうタイミング良く鳴ったものだから、スマホの鳴った数人が軽く会釈をしてスマホを見る。

 そして、同時に目を大きく見開く。


『色々と公開しちゃうぞ(•ө•)♡』


 泉から送られたメールは件名にそれだけ書かれた空メールだった。

 この色々は一体何を示しているのだろうか。俺は、言おうとしていた言葉を静かに引っ込めた。

 色々なのが逆に怖い。同じく、メールを送られた彩と梓も無言を貫いているということはなにか弱みを握られたのかもしれない。


「なんでもないです」


 スマホを開いた瞬間、俺が言葉を引っ込めたので早苗さんは怪訝そうに見てきたけど、俺はスルーした。


「それで、今日はメタガラス参加の面談のためにわざわざ東京から来てもらったということで、まずはじめに参加したい理由から教えてもらってもいいですか?」


 泉は場を見渡してから、そう、清楚スタイルで早苗さんに尋ねた。


「私がVTuberを始めた理由はこの声と見た目のギャップをネット上で解消したかったというのもあるんですけど、この子の歌手になりたいっていう夢を叶えるためでもあったんですよね」


 早苗さんはそう理由を話し始めた。


「大塚あやねと聞いてなにか思い出しませんか?」


 早苗さんは、横でずっと無言でむすっとしている大塚ちゃんを見てそう言った。


「なにか、聞いたことある名前だなと思ってはいるんですけどどこだったかはちょっと」


 彩がそう言うと、俺も似たような感想だったので静かにうなずいた。


「そうですよね。なにしろ10年前ほどの出来事でしたから。『父になりたい』っていうドラマを知ってますかね?」


 そう早苗さんが言うと、彩が納得がいったように声を上げた。


「あ、たしかに、娘役だった子の名前が大塚あやねだったわね」


 彩からしばらく遅れて俺も思い出した。当時小学生だった時にヒットしていたドラマの子役にそんな子がいた気がする。


「でも、この子だとちょっと年齢が合わなくないか?」


 俺がどう見ても小学生に見えるその女の子を見てそういうと。


「当時から成長しなくて悪かったな。モブ顔」


 ずっとむっすりと黙っていた大塚ちゃんがそう俺を罵ってきた。


「モブ顔て」


 俺が思わずそう繰り返すと、彩が吹き出した。


「ふッ」


「おい、彩。笑い方が地味に傷つくんだが」


 俺がそう抗議すると、彩は、


「ヘンタイの方がいいかしら?」


 と、聞いてきた。妹の梓がなにやら変な目つきで見てくるので切実にやめてほしかった。


「いや、モブ顔でお願いします」


 俺がそう言うと、彩は満足そうにうなずく。

 俺と彩で二人でそう言い合っていると、場の他の人の視線が集まっているのに気がついた。


「ごめんなさい。続けて」


 彩が恥ずかしそうにそう言うと、俺は自分の頬が少し朱色に染まっているのを感じながら言った。


「そういえば、そのドラマかなり人気だったような気がするんだけど、どうしてその後はすっかりテレビ出演しなくなったんだ?」


 俺が、そう尋ねると、


「それが、ちょっとどうしようもない理由なんですが」


 早苗さんがそう話し始めると、ムスッとした表情を浮かべていた大塚ちゃんの頬が少し赤くなったような気がした。

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