23話 ジト目
「あ、どもども~ここでメタガラス事務所に所属するための面談をやるって聞いたんですけど、一般のお家でやるんですかね?」
俺の目の前には、横に小学生と思しき女の子を連れた涙子お姉さんが立っていた。
俺は、状況を理解するために目をパチクリさせて改めて状況を確認する。
「えっと、どなたでしょうか?」
俺は混乱する脳みそをフル活用させてそう返した。VTuberの美鈴咲として俺は涙子おねえさんと会っていないので、ここは初対面ということで通すべきだろう。
「えと、ちょっと妹さんかな? 呼んでもらっていいです?」
涙子おねえさんは、そう言って俺の背後をチラリと見る。
俺も釣られて振り返ると、不味そうな顔をした梓がリビングに顔を引っ込めているのが目に入った。
「ちょっと外で待っててもらっていいですか?」
俺は失礼を承知で玄関外に涙子おねえさんと女子小学生を残すと、玄関を閉めてリビングに駆け込む。
「おい、梓。お前、涙子おねえさんに家の場所を教えたのか?」
俺は混乱する頭を落ち着けるように、努めて冷静にそう梓に尋ねた。
「教えてないよ。というか、私個人じゃ連絡先交換してないし」
梓の言葉にそれもそうかと納得する。この時点で俺の脳裏には、あの自分が面白ければ何でもいいと思っていそうな人物の顔が浮かんでいた。
「泉の野郎」
俺は、ポケットからスマホを取り出すと、泉の番号にかけた。電話がつながると、俺は泉を問い詰めた。
「お前、俺の家で涙子おねえさんとの面談をセッティングしただろ……」
「ふふ、予定時間よりも早く着いてしまったようだね。僕も姉さんの車で向かっているからしばらくもてなしてくれたまえ」
そう言って、通話が切れた。バックでは常識人と思われる翼さんが泉になにやら問い詰めている状況が確認できた。
俺はとんでもない弟を持ったようでと同情的な気持ちになった。俺にしてもとんでもない友人を持っているということで全く他人事ではないのだけれど。
「梓。とりあえず、メガネを掛けて対応にあたってくれ。俺は、お前の鶏頭に任せると不安だから、二階から彩を呼んでくる」
俺が、リビングに顔を突っ込んでそう言うと、梓はうなずくとリビングに置いてあったメガネを掛けて玄関に走っていき、ドアを開ける。手にタブレットを持って。
「あのバカッ」
俺は、小さくひとりごちると、そのまま階段を駆け上がり自室に入ると、彩の部屋の窓を突くために何故か部屋に転がっていた突っ張り棒を手に取った。涙子おねえさんに声が聞こえるとまずいのでこうするしかない。
そして俺は一泊置くと、カーテンと窓を開け、彩の自室の窓を突いた。
「あ、」
そして突いてしまってから気づいたのだけれど、俺の視界には、俺の部屋のカーテンがいつも締め切られているので油断していたのか、腕を大きく上げて、服を脱ぎかけている。分かりやすく言うならばキャミソールが捲れておへそがこんにちはしているような、彩の姿が大きく映し出されていた。
「!?」
驚いた顔の彩と俺は数秒目と目を見つめ合わせると、思考停止していた俺はハッとしたように、カーテンを閉めて、部屋の中へと戻る。
そして、しばらくその時が来るのを待つ。
そして、1分ほどたった頃だろうか、カーテンがなにかで突かれた。
俺は再びカーテンを開くと、ジト目の彩と顔を合わせる。
「ヘンタイ」
「いや、着替えを覗こうとしたわけじゃないんだ」
俺がそう言い訳を言うと、彩は表情を変えずにそれでと返してくる。
「家に涙子おねえさんが来た。梓が対応してるから一緒に対応してくれないか?」
俺がそう言うと、彩は納得がいったように頷くと、
「じゃ、今から行くわ。変態さん」
この呼び方、いつまで続くんだろう。
そう思いながら、彩が自室の窓を締めたのを確認すると、俺もどうにか助太刀できなかと、下へ向かっていった。




