21話 倍返しと泉の野望
私は、中学の途中からずっと開けてこなかった自室の窓を見てため息をついた。
こうして、少し陰鬱な気分になると、私と傑の関係がギクシャクすることになった原因である中学の時の色恋騒動を思い出す。
それを解消しようとして私から会おうと約束したのに、私はいざ話し合うとなると怖くなって約束を破って、待ち合わせの場所に行かなかった。
それで幼馴染の関係はもう終わってしまったのだと思っていた。
まあ、それでも、未練たらしく傑の妹の梓ちゃんと遊ぶという理由をつけて毎日のように傑の家に遊びに行ったりしたんだけども。
それが、今日になっていきなり。
「Vでアドバイスした中でも特に親近感の湧いた悩みだったからよく覚えてたあの質問の主が、まさか傑本人だったなんて」
そう言って、外では絶対に見せられない顔で私は悶える。
そう、自分でも思ってもなかった経過を経て、私と傑の関係は再び始まることになったのだ。
「それにしても、あの子がまさか男の子だったなんて」
そう言って、どう見ても可愛い女の子としか思えなかった泉さんのことを思い出す。
「でも、男の子で良かったわ。そう思うことにしましょう」
そう、泉さんに自分を使って遊ばれたことを納得させようとした所で私の頭の中に泉さんにやり返すアイデアが浮かんだ。
私は、我ながら悪い笑みを浮かべながら、ちょっとした仕返しのつもりで思いついたことを実行することにした。
*
コラボの日がやってきた。俺は、パソコンを立ち上げ、すでに作ってあるコラボ用のグループのあるチャットアプリを開いて通話を開始する。
「どうも、美鈴咲です。今日はよろしくおねがいしまーす」
すでに通話は開始していて、コラボ相手の涙子おねえさんとチチちゃんこと彩が通話に入っていた。
「あ、どもどもー」
「よろしくです」
初めて通話越しに直接話す涙子おねえさんは、思ったよりも軽そうなノリで挨拶してきた。彩というと、チチちゃんの時のあの甘い感じが嘘のようにドライな感じだ。
「じゃあ、ちょっとだけ打ち合わせしたら始めましょ」
主催者の涙子おねえさんの進行でコラボ配信はつつがなく進められていった。
*
「それで、チチちゃん最近一番驚いたことはなんですかな?」
そう言って、予め打ち合わせで募集しておいた質問の中から涙子おねえさんは質問をした。
「それがですねえーなんとなんと、この間、烏城さんに直接会ったんです。そしたらまさかまさかだったんです!」
その言葉に俺は驚いた。無難なことを言うのかと思っていれば、未だにネット上では秘密のベールに包まれている烏城こと泉について触れたのだ。
「お、これはネット上がざわつきそうな話題ですなあ」
涙子おねえさんも、やはりネットに住まう住人とすれば烏城の正体が気になるのか、テンション高めでそう返した。
「まさか、まさかのめちゃめちゃ可愛いスカートで来たんですよう」
そのチチちゃんこと彩の言葉は、あっという間に、日本を飛び越え、海外にまで広がり。
『秘密のベールに包まれた天才ハッカー、烏城。まさかの女の子だった!?』
そのニュースはTwitterの世界トレンド1位になった。
*
「全く、これはやられたね」
コラボの次の日、すでに多言語に翻訳され、再生回数が異常な回数になったコラボ配信画面を前に、俺の家でそう泉は言った。
怒っているのかと思えば、泉はケロッとしていて、どちらかと言えば、面白そうな雰囲気ですらあった。
「彩さん、僕にやり返すつもりだったのだろうけど、僕は自分の名前が売れる限り大歓迎だよ」
そう言って、さすがにここまでの反響がでるとは思ってなかったのか、申し訳無さそうにしている彩に笑いかけた。
「そうだ、彩さんにも僕が開発したモーションソフトを使って欲しいんだ」
そういうと、泉は、彩にUSBメモリを渡した。
「今、一般に使われているソフトよりも高性能だと自信を持って言うよ。安物のWebカメラを使っていても、機械学習を使った奥行き検知機能を搭載しているから、踊ってみたなんかの普通はスタジオレベルの機材か、MMDみたいにボーンごとに動きを入力しなければいけないものをただの動画データで作成できるからね」
確かに、あのソフトはすごかった。俺も梓に頼み込んで踊ってもらい既に何本かの踊って歌ってみた動画を出していた。
「あ、ありがとう」
彩は、流石に嫌味くらいは言われると思っていたのか、キョトンとした風にそれを受け取った。
「僕は、VTuberで世界をとると言ったのを覚えているかい?」
泉は、そう言って様子を見ていた俺に話題を振ってきた。
「ああ、確か初めてあったときだったかな?」
「それは、僕が目指す野望のはじめの一歩なのさ」
泉はそう言って、すっと澄んだ瞳を俺たちに向ける。
「僕は今後、このソフトを無償で一般に公開してバーチャル世界のプラットフォームで覇権を握る。そして、その技術と実績、それを持って仮想世界、今で言うところの、いわゆるメタバースの世界で覇権を取りたいんだよ。この分野で後発かつ個人である僕が勝つためには、なによりも銀行の融資が受けられるだけの実績と技術、信頼が必要なのさ」
泉は、そこで言葉を切る。
「そこで、君たちに協力してほしいんだ。僕が立ち上げるバーチャル技術の会社に参加してくれないか?」
泉は珍しく真面目な様子でそう言った。
地味に嘘はついてない、彩さんはいい娘なんですッ!
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