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20話 逆光

 帰り際、泉は田所に仕事場を紹介すると言って、俺と彩をおいてさっさと帰ってしまった。

 そして、俺はなんとなく気まずい気持ちを感じながら、彩と帰路についている。


「なあ」


 俺は、そう彩に中学の時のことを話そうと声をかけた。自分でも驚くくらい唐突に今がその時だと感じた。


「なに?」


「あの時、どうしてあの場所に来なかったんだ?」


 中学のときから心の底では、ずっと聞きたかったことが、また彩と関われるようになった今ではすんなりと聞くことができた。


「それは……行こうと思ったけど、実際にそのときになると、どうしても怖くなっちゃって、行けなくて」


 そうか、彩も同じだったのか、あの件で、彩と関わることがなんとなく辛くなって、彩を避けがちになって、それから彩からの提案で一回話会おうということになったら、今度は彩が俺と会うのが難しくなって。


「同じだったんだな」


「ええ」


 彩は俺の言葉に静かに答える。

 それで、全てのことが打ち溶けることはないのかもしれない。だけど、また以前のように二人で笑い会える日が来ればいいなと思えた。


「彩がVを始めた理由っていうのをさ、梓と話したんだ」


「それで?」


 彩はその言葉に立ち止まると、俺の方を見た。


「梓はわかったかもって言ってたんだけど、俺はさっぱりでさ。でももしかしたら分かったかもしれないから聞いてもいいか?」


 俺がそう聞くと、彩は迷ったように顔を伏せてから言った。


「いいよ」


「あの日、約束の場所に来なかったあともさ、俺の家で梓とはよく遊んでただろ。もしかして、俺から話を聞いてもらいたかったんじゃないかなって思ってさ。その願いが、リスナーと話すとかそういう方向になったのかなとかさ。まあ、俺の願望なのかもしれないけどさ」


 俺が、乾いた笑いとともにそう言うと、


「……」


 彩は否定とも肯定とも受け取れるような沈黙を返してきた。


「チチちゃんってさ、よく生配信でリスナーさんの悩みを聞いてただろ。俺もそれで一回相談してるんだ。ちょっと声のピッチ変えてだけど」


 俺がそう言うと、彩は驚いたように顔を上げた。


「幼馴染と気まずい関係みたいになったんだけど、そのあとにも幼馴染がよく家に来て、妹とは仲良くしてるんだけどどうしようって」


 あの時と同じ質問を言うと、彩はあのときの質問と同じ答えを言った。


「きっと、幼馴染はあなたと仲良くしたいと思ってるだろうから、ちょっと勇気をだして話しかけてあげて」


 俺が驚いて目を見開くと、彩は少し走って俺から離れる。


「なあ、それってさ。お前の本音なのか?」


 俺が、いままで出せなかった勇気をちょっとだけ振り絞ってそう尋ねると、


「ひみつ!」


 そのときの彩の表情は逆光でよく見えなかった。

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