19話 天才と天災は紙一重
「いいや、男の子だよ」
泉がそう真実を伝えると、彩と男子生徒は驚愕の声を発した。
俺はというと、ついに彩が信じている俺と泉との交際疑惑が晴れるのかと感慨深い気持ちになる。
「ねえ、ホントに男の子なのよね?」
彩が信じられないというようにもう一度尋ねると、泉はおちゃらけるように聞き返す。
「スカートでもめくって確認してみるかい?」
「拙者が確認しましょうか?」
男子生徒が真剣なトーンで発言すると、彩はドン引きした表情で首を振る。
「いや、いいわ」
「それで、傑。あなた、もちろん知っていたのよね? 二人で私を騙してさぞ面白かったでしょうね?」
そして、彩の視線はそのまま俺へと向けられた。
「いや、誓って面白がってない。そもそも本当のことを言わせてもらえば、はじめから泉が男だとネタバレしようとしていたんだけど、泉に口止めさせられてたんだ」
俺がそう説明して、泉にも証言してもらおうとして泉を見ると、
「その通りさ。もともと傑がVTuberを始めたのだって僕が面白いと思ったことを二人でやろうというのが始まりだったのだよ」
泉が追加で説明してくれたおかげで彩はキツく釣り上げた目尻を下げてこちらを見てくる。
「そう、疑って悪かったわ。泉さんは相当に性格が悪いようで、そのことがよくわかったわ」
その言葉に俺は、そのとおりだと言うように、深く頷く。
「そう、その通り。僕は性格が悪いのさ。なのでこんな裏話もしようと思う」
俺が、油断して頷いていると、そう言って泉が切り出した。
「彩さん、そこの傑はね。唯一、スパチャをするくらいに君のことが好きで、VTuberとしての君の声に中学の頃の君の面影すら感じていたそうだよ」
泉は突然そんなことを言ってきた。
前者は誰にも言ってないことだし、後者は妹にしか言ってないことだった。
「泉、お前それどうやって知ったんだ?」
俺が、そう尋ねると、
「傑、そんな風に思ってたんだね」
彩がそんなことを言ってきた。
「あ、」
そこに彩本人がいることを失念していた。これではまるで俺が彩に好意を持っていることを白状しているようなものじゃないか。確かにそれは事実だったのだが。
「まず、君がスパチャを行っていたパソコンは誰が提供したものだったかを思い出してみるといい。そして、君にあげたあのタブレット、妹に使わせているね」
そう、泉は正々堂々とスパイウェアを仕込んでいることをバラしてきた。
「お前……」
俺は諦めのため息をつくと彩を見る。
「これはあれだからな。あくまでVTuberとしての彩が好きなわけだから」
俺がそう言うと、彩は少し頬を染めてうなずく。
「そんなの分かってるわ」
なんとなく気まずくなって俺は泉に疑問に思ったことを尋ねる。
「なあ、泉。お前ならそもそもこの不審メールを送ってきたアドレスさえ分かってればわざわざ現地に向かわなくても犯人特定できたんじゃないか?」
俺がそう尋ねると、泉はニヤリと笑って言った。
「本当にやばそうな犯人だったら直接会いかねない調査方法など取るはずがないからね。もちろん事前に犯人のパソコンにウイルスを送り込んで、犯人の人となりについて調べてあるよ。パソコンの情報は個人情報そのものだからね。観覧履歴やネット上の書き込み。入力履歴なんかを見ればだいたいの人となりは分かるさ」
泉のその言葉に俺は突っ込んだ。
「お前、それ犯罪だよな。彩は捕まらない程度にって言ってたような気がするが」
そう言うと、泉は清々しい笑顔で。
「いいかい? そのウイルスのあったパソコンを見たまえ。データは完全に吹き飛んで、一切のデータはない。メールのデータだって海外サーバーをいくつか経由してるから特定作業は現実的でない。ハックだってそもそもこの男子生徒のネットワーク内で完結しているからログも残らない。つまり、証拠がない。よって犯罪じゃないのさ」
そう言い終わると、パソコンを完全初期化された男子生徒が言う。
「拙者はまずい操作はなにもしてないはずなのにすごい技術ですなあ」
もう、完璧過ぎて怒る気も起きないのか、男子生徒は関心した風にそう言った。
「いや、君は重大な間違いを犯しているよ」
泉は、そんな風にわざとらしく首を振る。
「え?」
男子生徒が目をパチクリすると泉は尋ねた。
「メールに添付していたzipファイルを解凍して中の写真データを見たね」
「あの、チチちゃんのお宝写真って書いてあったファイルですよね?」
「そうさ」
「でも中身はただのjpeg写真だったと思いますぞ、開いてもただの風景写真が表示されるだけだったと記憶しておるのだが」
「いいかい? 拡張子を見ないのは素人。拡張子を見るのは初心者だよ。拡張子なんて簡単に偽装できるのさ。もっと言えば、送信元メールアドレスだって偽造できる」
俺が、はえーと思っていると、ちょっとはPCスキルに自負を持っていたのか、その男子生徒は崩れ落ちる。
「入る学校を間違えたと思ってもなお、パソコンを使う授業で頼られることだけを楽しみに学校に通っていたのに拙者は初心者であったのか……」
俺がその様子に可哀想に思っていると、
「拙者を弟子にしてくださいッ」
男子生徒が土下座をしていた。
「うん、いいだろう」
泉はそう言って、続けた。
「それで、僕は知っているが、そこの二人は知らないから今後も僕と関わるつもりなら君の名前をそこの二人にも伝えてくれ」
泉は当たり前のようにその男子生徒の名前をしっているようだった……。
「拙者は、田所勝と申すものだ」
俺と彩はその特徴的な自己紹介にただどうもと返した。
泉が田所を都合のいい雑用係が増えたようにしか思っていない可能性について俺は可哀想だから考えないことにした。