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122話 トイレは反対方向なんすけどね

「見た目女の子なのに、なんか生えてるの~~~~~!!!!」 

 

 その幼女の暴挙は、普段はどこか斜に構えている泉から冷静さというものを奪ってしまった。

 そのなんとも言語では表現できぬ叫び声が止んだ後、場がなんとも言えぬ気まずさに静まりかえる中、一番はじめに口を開いたのは梓だった。


「私が、一番になるはずだったんだよ……」


 なんの一番だよ!! と突っ込まなかった俺を褒めてほしい。とか思っていたら、次に口を開いたのかあの人だった。


「なんの一番だよ! と言おうかと思いましたが、まあ、()()()()()()()的な意味ですよね! まあ、ちんちくりんではなく、私こそが一番になるはずだったんですが、初めての人とはうまく行かないともよく言いますしね」


 俺の妹とこの男装女は一体なにを幼女と競っているのかとも思ったが、はなちゃんが首を傾げていたのを、納得したようにぽんと手を打った。


「これが多様性ってやつなのね」


「僕は! 女装趣味なだけだ!!」


 多様性のなにが気に入らないのか、泉はそう言うと、目尻に涙を貯めて言葉を続けた。

 ……なんでしょうか、本気で男を落としにかかるの、やめてもらってもいいですか?


「いいかい? ネットの内容は簡単に信用してはいけない。だからといって現実の出来事が信用できるとは限らないというのは僕の持論だけどね。僕は今日、現実における絆の強さというものを感じたよ。バカ二人(傑・諸星)の自己犠牲と、仲間や家族との絆でね」


 さっきまでのことをなかったことにしたらしい泉がそう言うと、少し遅れて優しい諸星さんたちもなかったことにすることに決めたようで、答える。


「全く、最後の最後まで僕は君に踊らされたってことみたいだね」


 諸星さんが敵わないとでも言うようにそう言うと、泉はくすっと笑うと言った。


「諸星さんを踊らせたのはなにも僕だけじゃないよ。僕は最初、わびちゃんの移籍を言うのはこの場にするつもりだったんだよ」


 そう泉が言うと、諸星は呆れたように美咲の方を見た。


「わざわざ、先に脱退を僕に伝えたのには何か理由があったのかな?」


「私は、あのときに脱退を伝えた方が社長には効果的だと思ったの」


「なんでそう思ったんだい?」


「だって、社長、会社を諦めてなかったもん。あの時に追い詰めたほうが、社長はこの場に来る可能性が高くなると思ったから」


 美咲がそう言うと、諸星は笑いながら言う。


「君が周りから言われる聞き上手っていうのはそう観察上手なところから来てるのかもしれないね」


 そう、諸星が言うと、美咲はまんざらでもないように頷くと、観察力ね……と呟いた。

 そして、ニコッと笑い、周りを見ると言った。


「そういえば、傑くんが勇気を出して、みんなに謝ったんだから、ファンは別として、みんなは許してあげようよ」


「僕は来る者は拒まずだよ」


 泉がそう言うと、翼さんもうなずく。


「拙者はまた傑どのの帰還、大歓迎ですぞ」


 田所がそう涙を浮かべていうと、早苗さんも頷きながら言う。


「私はもちろん許すっすよ」


「もちろん、お兄ちゃんの帰還は大還元なんだよ!」

 

 ……大歓迎な。


「私は、さっきモブ顔に制裁したから許してやるよ」


「私は楓さんに従うだけですから」

 

 エイヴェリーさんはそう言うと、最後に残った彩の方を見た。


「私は、みんなが許すなら、許すから……、それにあとはファンが許せば……」


 彩がそう言うと、美咲はニヤリと笑うと、彩に言った。


「私が傑くんから聞いた感じだと、そもそも傑くんの告白にちゃんと答えてれば、こんなことにならなかったかもしれないなって思ったんだよね。彩ちゃんもここで傑くんみたいに勇気を出すところじゃないかな?」


 美咲の言葉に俺が彩の方を見ると、彩は怒りからなのか、顔を真赤に染めると、口を開いた。

 あの状況ならまず間違えなく断られてるんだから追い打ちをかけるのはやめてくれ。俺がそう思っていると、彩の言葉に意識がそちらを向いた。


「私は、別に傑の告白を断ったわけじゃない。ただ、()()だと思っただけ」


 俺がその言葉の意味を頭の中で咀嚼していると、俺よりも頭の回転の早いらしいみんなが、俺と彩を見てニヤニヤしていた。


「なあ、まだっていうのは……?」


 俺がそこから導かれる結論にうぬぼれではないか、確認するようにそう言うと、彩は精一杯の勇気を込めたように一言言った。


「まだだから、まだなの。もうバカッ!」

 

 俺は、愚鈍な頭を回転させるとおそらく自分の考えが間違っていないだろうと、言葉を発する。


「なあ、それって今じゃなければ良いってこと……」


 俺がそう言うと、美咲が被せるように言った。


「あーあ、せっかくチャンスあげたのに、物にできないなら、私も参加しちゃお!」


「なあ、それってどういう……」


 俺がそう言う間に美咲は俺の横まで身を寄せると、顔を寄せて……。


「サービスと私の気持ち」


 その瞬間、なにか柔らかくて、温かいものが頬に当たったのを感じた。

 遅れて、みんなの叫び声と、彩のなにかの籠もった視線。


「あ、そこのおチビちゃんも早くしないとお姉ちゃんがもらっちゃうかもよ?」


 一向に再起動しないままの俺をよそに美咲がなにやらそんな言葉を放つと、大塚ちゃんの叫び声が聞こえた。


「わ、わ、わ、私はこんなモブ顔なんて!!!!」


「初恋の中学生可愛い~~!! じゃあ、私はトイレ行ってくる!!」


 美咲は、場を混乱の渦にしておきながら、そう言って、出口の扉の方に走って行ってしまう。


「トイレは反対方向なんすけどね」


 そんな早苗さんの声が聞こえた気がした。

4ヶ月も更新せず遅くなりました。待っておられた方いれば、ごめんなさい。

もう、忙しすぎてぜんぜん執筆の時間が取れず、そうしているうちに頭の中の物語も霞んでしまい、文字も進まず、なんとか続けますのでお待ちいただけると……。

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