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120話 さて、話し合いといこうか。2

「君が、君たちが、この短期間でこの業界を掌握した理由も、それ以前に君が伝説のハッカーと呼ばれるまでになっていることの意味も今よく理解したよ。でも、この会社を売ることはできない」


 諸星がそう言うと、泉は呆れたような視線で、諸星を射抜いた。


「断るならそれでもいいよ? かなりの遠回りになると思うけれど、私とそこのエイヴェリーさんが頑張ればいつかはあなたの生み出したソフトに肩を並べる自信もあるから」


「君はなぜそこまでして歩みを止めないのかい…?」


「それはね。夢だからだよ。私はこうして仲間に恵まれたけれど、世界にはそんな仲間に恵まれない人もいる。体のハンデで機会に恵まれない人がいる。心身のギャップで自分をさらけ出せない人がいる。そんな人達が真の仲間を見つけられるような、そんな世界を作りたい。それが私の夢。私達の夢」


 泉がそう言うと、今度は諸星が呆れたように言った。


「君は、世界の創造主にでもなるつもりなんだい?」


「私はそうなれと言われたなら、そうなるだけの覚悟がある」


 泉がそう言うも、諸星は言った。


「その言葉が響くだけの情熱を僕はもうすでに失ってしまっているよ」


 諸星がそう言うと、早苗さんが立ち上がって言った。


「さっきからうだうだとうるさいっすね、この男は。なんとなく、引っ込みがつかなくなっている男の子のくだらない理由は察しがついてますけどね。さっさと、本音を話したらどうです?」


 早苗さんがそう言うと、諸星は一瞬、凄みのある表情をしたかと思えば、すぐにニヒルな笑みを浮かべると、首を振った。


「はは、美桜の友人は辛辣だな~」


 諸星がそういった瞬間、いつ立ち上がっていたのか、諸星の頬を美桜さんがパンッと勢いよく張っていた。


「あなたね? 自分だけですべてを抱えて責任果たしたつもりになっているのかしらないけれどね! 私は一言も会社を傾かせたあなたを見捨てるとも言ってないし、横に並んで一緒に歩かないとも言ってないわ!! あなたがどれだけ私に対して信用がなかったのかは知らないけれど! 私はあなたとどこまでも歩いていく覚悟があったの!!」


 美桜さんの激白に場は静まり返った。

 張られた当の本人である諸星も、目をぱちくりさせながら、美桜さんを見ていた。


「ママが修羅場なの!!」


 と、そんなシンと静まり返る場に場違いなほど、幼い声が響いた。


「ちょ、はなちゃん、今はだめ…」


 急に視線を集めて、なんとなく恥ずかしそうな彩がはなちゃんの口を塞ぐと、意識を取り戻したらしい諸星が口を開いた。


「僕は美桜と…はなと、別れる必要はなかったのかい? 稼げなくなって価値のなくなった僕でも、会社を潰して、社長ですらなくなった僕でも君たちは見捨てずにいてくれたのかい?」


 諸星がそう言うと、美桜さんが呆れたように言った。


「大学生の時、随分と偉そうに夢を語っていたくせして、その中身は小心者なのは今の今まで全然変わってないのね」


「だって、僕は、家族を、君たちを守ろうと」


「あのね、それで、家族を壊してちゃ意味ないじゃないの。それに、あなたは少なくとも私にとっては価値のある夫だったわ」


 美桜さんがそう言うと、諸星は、周りもはばかることなく涙を流す。


「ずっと責任を感じてたんだ。会社が立ち行かなくなって、養えないどころか、借金まで抱えそうになったとき、僕のまぶたの裏に写ったのは君の顔だった。こんな苦労はさせられない。僕だけが背負えばいい。そう思ったんだ」


「私だっていくらでも働いて借金を抱えたわ。それに、いざとなれば一緒に破産する覚悟だってあったわ。だって、元々ベンチャー企業の社長さんにお嫁に行くほど、冒険心のある方なんだから!」


 美桜さんがそう言うと、諸星は美桜さんを抱きしめた。


「愛してる美桜。また僕と結婚してくれるかい?」


「ええ…もちろん」


 そう言って、諸星と美桜さんが抱き合うと、またしても現場にそぐわない幼い声が響いた。


「パパとママが破廉恥なの…」


「は、はなちゃん、今いいところだから……!」


 なんだか彩がなんとも野次馬根性にあふれる言葉とともにはなちゃんの口を塞いでいる気がしたが、顔を真っ赤にした美桜さんが諸星を突き飛ばした。


「時と場所を考えなさいよ!!」


 うん、時は合ってたかもしれないけど場所がね…とか俺が思っていると、諸星が床に倒れながら言った。


「君は昔からパワフルだったよね」


「あの、それで、()夫婦の仲直りはそれくらいにしてもらって、例の案件の返事をお願いしてもいいかな?」


 以外に初心である泉がちょっと頬を染めながらそう言うと、諸星は真面目な顔をして座りなおすと、横に座る美桜さんの手を握って言った。


「ぜひ、僕の会社を僕たちの夢のかけらを、君に預けたい」


 諸星はそう言うと、受け取った小切手に数字を書き込んだ。


「これが今僕が抱えている、すべての借金の合計額だ。これで僕の覚悟を受け止めてほしい」


 泉は数字を書かれた小切手を受け取るとニヤリを笑みを浮かべて、ペンでマルを付け足した。


「これじゃあ、会社の運転資金がないじゃないか」


 口をパクパクさせた諸星の言葉は小さかったが、場のすべての人に聞こえていたはずだ。





「な、ななじゅうおくえんなの~~~~~!!!!」


 なにしろ、諸星にくっついてた、はなちゃんが大声で復唱したのだから。

お待たせしました…。

気づいているかもしれませんが、この4章の中には矛盾点があります!

どうにかこうにかしてどうにかしようと思うので、スルーしてもらえると助かります笑


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