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119話 さて、話し合いといこうか。1

「これはどういうことだい?」


「ねえ、これはどういうこと? 早苗?」


 俺は、都内某所、穴場という言葉のよく似合いそうなそのカフェへと諸星を連れてきていた。

 そして、そこで美桜さんを連れた早苗さんと出くわしたというワケだった。


「それは、早苗さんじゃなくて私から話した方が良さそうね」


 その声は、厨房の奥から、数人を引き連れてでてきた少女から発せられた。

 ハスキーボイス、聞く人が聞けば声だけですぐに虜になってしまいそうなその持ち主は、その容姿すらも恵まれていた。


「私は、メタガラス代表の烏城。今日は、ここにいる美鈴咲、いいえ、傑くんを返してもらうためにきた」


 だけど男なんだよね。という言葉があとに続くことになるその美少年は、世界一頼りがいのある女装姿とともにそう宣った。


「美桜さん、今日はここにいる諸星司氏との不幸な誤解を解くこと、そして、()ご主人の仕出かしてくれたことの精算のために、早苗さんに無理して協力をお願いして来てもらったの。ひとまず、ここに座ってもらってもいいかしら?」


 泉さんがそう言うと、翼さんが人を落ち着かせるような笑みを浮かべて、諸星と微妙な距離を隔てた場所の椅子をひいた。

 表情を強張らせていた美桜さんは引きつらせた笑みをなんとか引っ込めると、案内された椅子に腰掛けた。


「ママ、私はこっちの破局のお姉さんの隣がいいの!」


 と、先程までは母親である美桜さんの後ろに引っ込むようにしていたはなちゃんが飛びつくように彩のとなりに引っ付いた。


「あ、ちょっと! はな!」


 美桜さんがそう言いながら、再び立ち上がろうとすると、彩は良いんですとはなちゃんの手を握ると、自分の隣の椅子へと座らせた。


「ありがとう! お姉ちゃん!」


 ぷにぷにのほっぺを喜びでほころばせると、はなちゃんは満足そうに椅子の上で足をぶらぶらさせる。


「それで、当事者が勢ぞろいしているようだけれど、傑くんが言っていた、いい話というのは、僕が別れた元妻と、娘と、そして、僕の事務所からそこの社長のところのメタガラスへと移籍した、美咲に会わせることだとしたらそれは僕と君の間には相当な認識の隔たりがあるとしか言いようがないのだがね」


「俺はいい話があるとしか聞いてないよ」


 俺がそう言うと、泉さんが知らない人が見ればひたすらに可愛く、知る人が見れば底冷えのするような笑みを浮かべて言う。


「いい話の内容は私から、言わせてもらうよ。単刀直入に言わせてもらうね。Vセカイ、メタガラスに買わせてもらいたいんだ。言い値でさ」


 泉さんがそう言うと、エイヴェリーさんが、値段の書かれていない小切手を諸星の前の机に置いた。


「さて、ここに僕が10億円と書いても君はその支払をする用意はあるというんだね?」


 潰れかけの会社に10億円の価値などあるはずはなかった、しかし、泉さんは、笑みを深くすると、頷いた。


「もちろん、この小切手を用意してくれたのはメタガラスと協業しているブロンドテックの口座に紐づいているからね。諸星さんが吹っ掛ければ100億円だって、決済できるよ」


 100億円、それはもう途方もない金額だった。詳しい額は知らないが、Vセカイの借金を何十回も完済できるような額だろう。


「それで、手付金だけ払ってVTuber創世記からのブランドだけ買い取って僕はお払い箱というわけか。話題の美少女ハッカーとやらはなんとも儲かる商売みたいだな」


「いいえ、諸星さんにはこれからもVセカイで働いてもらうよ」


 その泉さんの言葉を聞いて諸星はもはや困惑するように言葉を繋いだ。


「このずっと付き合いのある銀行からも救いようのないと評価された僕と会社にどんな評価をしているのかを知らないけどね。僕もそこまで馬鹿じゃないよ」


 諸星が少し怒りを込めてそう言うと、泉さんは一般公開はしてないから許してほしいと、一言断ると、「これがVセカイの可能性だよ」と言って、ある映像を見せた。


「このVTuberの挨拶の映像を見せてなにがしたいんだ?」


 諸星は困惑したようにそう言ってカフェのテレビに映し出されたその映像を見た。


「この動画のもとになったものを見てもらおうかな」



「拙者がやるのでございますか? ほんとに拙者に務まるのかどうか」


「良いから、やってください。ほら、終わったら、泉さんが褒めてくれますよ!」


 エイヴェリーさんがそう言うと、田所はノリノリな様子で、カメラの前で挨拶を交わした。


「改めて、映像を見返したら、拙者、死にたくなりそうであります……」



「これをVセカイの配信ソフトのボイスチャンジャーと私のメタガラス3Dのモーションソフトを使って、映像にしたのが先程の影像よ」


 その言葉に諸星は信じられないというように泉を見返した。


「これがあのソフトから生み出された映像……」


「ここに、ブロンドテックの開発している同時翻訳機能などを組み合わせたら、それこそ、VTuber界隈にとどまらない真のメタバース世界の覇権をとれると私は思った。だからこそ、あなたの会社を買いたいの」


 泉さんがそう言うと、諸星は椅子の背もたれに背中を預けると、しばらく考え込むように目を閉じた。

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