110話 泉の思考
「さてとどうしたものかね」
泉はそう言うと、少しの間公園の入口に待機させていたタクシーの運転手にもと来た道へと戻るように伝えると、パソコンを開いた。
「みんなに伝えるべきかどうか」
傑がやっと本心を伝えてきたことを、彩たちを始めとするメタガラスのメンバーに伝えるべきか、泉はしばらくの間、顔認証ですでに開いたディスプレイに薄っすらと映る自分の姿をぼうっと見つめながら、考えを巡らせる。
「教えるべきではないかな」
泉はしばらく考えてから、そう結論を述べた。彩であれば、納得はできなくとも、協力してくれるだろうが、大塚ちゃんや……梓は、泉でさえもなにを仕出かすか分かったものではなかった。
「いや……君の言ったことを実行するとなると、彼女と、早苗さんには伝えるべきだね」
泉はさらにそう思い直すと、パソコンのチャットアプリを立ち上げると彩の連絡先を開いた。
「さて、どうするか」
そう言葉を零すと、泉はあのお人好しの言った言葉を思い出して、広角を微妙に持ち上げる。
「助けてあげてほしいなど、よくあんな目に合っておいて言えるね」
口ではそう言っていても、泉の頭は既に、メタガラスに利を取った上で、Vセカイをも助ける案を思考していた。
「債権をもった企業の中に僕のお得意先の企業を見つけて、そこを突破口にしようとは思っていたけれど」
そう、Vセカイがメタガラス3Dと同時期に開発していたソフトのリバースエンジニアリング等を行って分かった、メタガラス3Dに対しての強み、それは世間では天才と称される泉やエイヴェリーでさえも思わず欲しいと思ってしまうもので、だけど、それは世間ではまだ価値に気づかれてなくて。
「君はたちの悪い天才に好かれる才能があるみたいだね」
そう、元々大手VTuber事務所を立ち上げるだけの才覚と嗅覚はあったのだ。しかし、競争の最中少しの過ちから辻褄は合わなくなって、それが確定的になったのがメタガラスが公開したソフトで。
泉は敵ながら、いまだにそのソフトの価値に気づいているのが本人でもなく自分しかいないことにどこか世の中のやるせなさを感じていた。
「君には悪いけど、僕は欲しいよ。Vセカイが……」
*
「やっぱり、気づいてないけど、これはすごいですね。荒削りだから誰もその価値に気づいてないですが、私が大学で研究していたものと組み合わせれば……」
暗い泉の私室で泉とエイヴェリーはそのソフトを調べていた。
「そうだね。僕がいつも開発協力している企業に組み合わせれば色々な相乗効果を持たせられそうな技術をもったとことがある。Vセカイを買収したらさらにメタガラスがメタバースの世界で覇権を握ることに近づくね」
「面白いですね。将来的にはママの会社も買収しちゃいましょう!」
「ふふ」