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108話 見栄

 諸星が泊まり込むようになったので、仕方なく配信機材を寝室へと移動する羽目になった。

 俺が、その日の配信を終えてリビングへと向かうと、社長といえども限界会社とも言うべきVセカイの社長である諸星はなにやら考えこむように座卓の前に座っていた。

 よくかかってくるのを見るスマホを目の前の座卓に置いたまま、深刻そうな顔をされちゃ配信後の体が休まらないので俺は雰囲気を変えようと話しかけた。


「夕飯なににしますか?」


 なあなあにというのが正確だろうか。結局まだ懐事情のまだ良い俺が諸星となぜか今も諸星と座卓に座っている松前の分までご飯を準備することになっていた。


「私はチャーハンが良いかなって思うなー!」


 恥知らずにも松前はちょっと顔を上げてそう言うと、再び手元のスマホに顔を向けた。


「あのなあ。お前、タダ飯食らいなんだからちょっとは手伝え!」


 俺はそう言うと、松前のスマホを取り上げた。

 すると、松前はちょっと焦ったようにスマホをすぐに取り返すと、プスッと不満げな表情を浮かべる。


「おまえ、そんなに見られたくないやり取りならこんなところでするなよ」


「メッセージアプリのやり取り見たの。君?」


 松前の言葉に俺は頭を振った。


「いや、アプリのアイコンがちらっと見えただけで詳しいところは見てない」


 あまりにも素早く奪い返されたものだったから俺はそう事実を告げた。


「まあ、それならいいけどね」


 松前はそう言うと、また俺から視線を外すと、再びスマホに視線を戻したので俺は無言で、優しく松前を打った。


「いや、君。女の子になにしてくれてんのさ!」


「俺はご飯を作る手伝いもできない女は女の子とは認めないからな!」


 俺がそう言い返すと、松前は不承不承といったように立ち上がる。


「そうといわれちゃあ、黙っていられないねえ」


 そんな腕まくりをする松前を見て諸星が面白そうに言葉を挟んできた。


「じゃ、若い二人でイチャイチャ頑張って夕飯を準備してくれよ」


「あんたもタダ飯食らいなんだから手伝えよ!」


「良いのかな?」


 ニヤニヤ笑う諸星の言葉に俺はなにか引けなくなるものを感じながらも強がるような言葉を返した。


「もちろんだ」



「狭え……」


 諸星の横は嫌だと思春期の子供みたいなことを言う松前のせいで左のコンロ前に諸星、まな板のおいてある前に俺、流しの前に松前という順番で配置されたのだが。


「狭いなあ。君、私に近寄りたいがためにわざと近づいてない?」


 俺の独白と、松前のトチ狂った戯言は同時だった。


「あのなあ。だれがお前みたいな貧相なのと好き好んで近づくんだよ」


「ははーん、私と違って、黒髪ロングの幼なじみは貧相じゃないって言いたいんで……打つよ。君?」


 自分でいじって来たくせに途中からムカついて来たのか、松前は疑問形のくせに俺の足先を大分強い力でもって踏みつけてきた。


「ほら、チャーハンなんだから早く食材を洗って、切り分けてさ」


 諸星に言われて俺は時間を無駄にしたと思い直すと、松前に食材を押し付ける。


「はやく、洗え!」


「言われなくてもやるって」


 松前はそう言うと、食材を洗っていく。

 俺は洗い終わった食材をチャーハンに使えるようにみじん切りやら適した切り方で整えていくと、ボウルに入れて並べていく。


「じゃ、諸星さんあとはよろしく」


 チャーハンなので簡単に言えば、炒めるだけだ。そのくらいなら小学校を卒業した男の子だってできると思う。

 諸星はうなずくと、炊飯器から白米をフライパンに投入すると、たまごや野菜を入れて炒め始めた。

 

「意外に料理できるんですね」


 俺がそう言うと、諸星は懐かしそうな表情を浮かべると、ポツリと言う。


「娘によく作ってたんだよ。私の見栄のために、無理をしなければ今もこうして……」


 諸星はそこまで言ってはっとしたように言葉を止めると、ごまかすように言葉を紡いだ。


「今もこうしてなんて私が君に言えた義理じゃないな。見栄なんて本当にしょうもないものだと分かっているんだけどね」


 諸星の言葉に俺は見栄というものの意味を考えていた。もし、諸星に脅されたときに、俺が自分本位に考えずに泉と連絡することができたのなら……。

 そんな思考を中断させるように今の今まで野菜を洗うことに全力を傾けていたらしい松前が言葉を上げた。


「じゃ、私は自分の仕事終わったから、先にリビングに戻るね!」


 何となく会話のネタもなかったので俺と諸星は無言でチャーハンを作り上げた。

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