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105話 推理

「以前、大塚ちゃんを誹謗中傷した人物を訴えたことは覚えているね?」


「もちろんよ」


 あまり積極的には思い出したくない出来事だったので私がそう短く答えると、泉さんも同じような気持ちだったらしくて続けた。


「その際にお世話になった僕の懇意にしている弁護士に相談したのだよ」


 なんとなく弁護士と懇意にしているという所に、法に触れないか()()()()限りにおいては好き勝手にしている様子が想像できて私が思わず苦笑いを浮かべると、場のみんなも同じような感想を抱いたようで、同じような反応を浮かべていた。


「彼女の友人の探偵が調べてくれたところによると、諸星はどうも、その遊園地に緒方美桜と、その娘のはなに会いに行っていたようだね」


 その言葉に私はある考えが浮かんで声を上げた。


「スグルがSNSに上げた写真……!」


「ふふ、気づいたようだね。これは、どうも不注意から生じた不幸な事故だったようだ」


 泉さんはそう言うと、部屋の中の一番大きなディスプレイに傑が投稿した写真を拡大して表示した。


「大方、この時計の日付と画角から、VTuberの中の人を突き止めたというところだろうね」


 その言葉に私は項垂れるように頭を下げた。

 それでは、本当に偶然諸星司の撮った写真に私達が写り込んでしまっただけということではないか。

 私が、その自分たちの運のなさに言葉をなくしていると、エイヴェリーさんが声を上げた。


「クヨクヨしてる暇があるなら、解決方法を考えれば良いじゃないですか。私はママからそう言われ続けて育ちましたよ」

 

 世界的な企業の社長の言葉というなんとも説得力のある言葉に私が自分の中に眠る闘志に火を灯すようにグッと手を握ると、エイヴェリーさんは初めてあったときにのようなわざとらしく外国人らしい口調で続けた。


「それで、泉さん。私、弁護士の方が女性ということを初めて知ったのですけれど」


 エイヴェリーさんの指摘に泉さんは肩をすくめると、言う。


「彼女はそういうんじゃない」


「まあ、そういうことにしておきます」


 ぷすっとという言葉がこれほど似合うのかという表情をエイヴェリーさんは浮かべた。そんななんだからしいやりとりに先程までの闘志はどこへやら、なんだか、火の勢いが3割くらいに萎んでしまった私に、エイヴェリーさんはいたずらっぽく見つめてきた。


「ママの言葉は他にもありますよ。行き過ぎたヤル気は最良の結果を生み出しません。ほどほどに全力を出しなさい」


 そのなんとも矛盾してるけどなんとなく心にすっと入ってくる言葉に私は思わずニコリと笑って頷いた。

 エイヴェリーさんはそんな私を満足そうに見ると頷いた。


「私、あずちゃんを応援してるけど、幼なじみじゃなかったらエイヴェリーさんを応援してたと思う」


 私がそう本音をエイヴェリーさんに伝えると、エイヴェリーさんもニコリと笑って答える。


「それは残念です。彩さんの協力が得られればあんなチンチクリンなんて捻りつぶせるのに」


 言葉とは裏腹にいまのエイヴェリーさんの笑顔はすらっとした長身に妖精みたいな肌の白さのエイヴェリーさんの容姿もあって、それはもう、並の男ならころっと落とせそうだった。

 ただ、問題は落とそうとしている男の子がそれはもう曲者で……。

 私はちらりとちょっと警戒した様子でこちらを見ている泉さんの方を見ると小声でエイヴェリーさんに言った。


「今回だけ特別にアドバイスします。泉さんは結構、シンプルに女の子らしく詰め寄られるのに弱いと思いますよ」


 私の言葉にエイヴェリーさんは私の言葉に心得たとばかりに小さく頷いて泉さんに向き直った。


「どうしたんだい?」


 エイヴェリーさんはその言葉に何も返さずに、ぐっと泉さんに詰め寄った。


「ほら、ここ取れかけてる」


 年中、冬みたいに冷え切った泉さんの部屋だけれど、今日は秋らしく泉さんは前をボタンがけするタイプのセーターを着ていた。エイヴェリーさんは体を寄せながら、セーターのボタンを触る。


「指摘してくれてありがとう。これは修理にだすことにするよ」


 泉さんは普通の声音を装ってそう言うが、耳が赤い。


「私が修理してあげます」


 エイヴェリーさんがそう言うと、泉さんは小さく、言った。


「お願いするよ……」


 エイヴェリーさんはその言葉にニッコリと魅力的な笑みを浮かべた。


「任せて!」



「あずちゃんごめん。エイヴェリーさんの本気、女の子の私でもときめいちゃうよ……」

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