104話 進展
「久しぶりね」
私は、田所くんと話終えると、早苗さんを呼び出して、泉さんのアパートにやってきていた。
古めな外装に似合わず、新築に見える内装も、最近は、人数が増えてきてプレハブの方に集まることが多かったからなんとなく懐かしい気持ちを抱いてしまう景色だ。
「やあ、久々だね」
私の挨拶に、泉さんは事も無げに返すと、アーロンチェアをクルッと回転させて振り返った。
「それで、久々に顔を出したかと思えば、僕に何か用があるのかい?」
泉さんの言葉に私は、ちょっと意地悪な気持ちを抱いて、言った。
「まだ僕たちのもとへ戻ってくる意思があるってことかい?」
私が、そう、とてもわざとらしく泉さんの声音を真似て言うと、泉さんはいつもの飄々とした態度はどこへやら、キリッと田所くんを目線で射抜くと言った。
「君、僕は言うなと言ったはずだよ」
目を潤々と潤ませて言う様子になんだか女として負けたような気持ちを抱いていると、横でパソコン画面を前に作業をしていたエイヴェリーさんがニヤニヤ笑みを浮かべながら言う。
「そりゃ、あなたよりも、私の楓さんの方が可愛いに決まってます!」
「エイヴェリーさん、私の心を読むのやめてもらってもいいですか?」
私がげんなりとした声でそう言うと、早苗さんが話を切るようにして声を上げた。
「まあまあ、仲良さそうにじゃれ合うのもそこら辺にして、実は大事な話があってきたんですよね?」
早苗さんはそう言うと、私に詳しいところを話すように促した。
「そうなの、実は私、Vセカイのワビちゃんの協力を取り付けることに成功したの」
私がそう言うと、泉さんはキョトンとした顔付きになると、私を見返した。
「君、ワビちゃんの中の人と話すことができたのかい?」
「ええ、DMから直接コンタクトを取って、二人で話したの」
私が真剣な眼差しで言っているのに何かを察したのか、泉さんはそれ以上、詳しいことは何も聞かずに、そうかと頷いた。
「僕の調べも進展があってね。実は、そのことで早苗さんを呼び出すつもりだったんだ」
泉さんがそう言うと、早苗さんは予想してなかったようで驚いたような声音で聞き返した。
「え、私っすか!?」
「早苗さんは、緒方美桜という女性を知っているね?」
その名前が出てくることは予想して無かったのか、早苗さんが驚いたような声を上げた。
「知ってるもなにも、私の高校時代からの親友っすよ」
早苗さんの言葉に泉さんは満足そうに頷くと、続けた。
「緒方美桜、Vセカイの社長である諸星司の元妻であることを知っていたかい?」
「え? マジっすか?」
早苗さんの驚愕の声とともに私も呻くように声を上げた。
「私、その人知っているわ。だって、傑と一緒に行った遊園地で……」
私が、なんともグタグタな目にあった出来事を思い出して遠い目をしていると、泉さんがニヤリと広角を上げて言った。
「ふふ、おそらく、その緒方美桜こそがこの失踪事件を解決するのに必要なピースになるはずだよ」
その言葉に緒方美桜を知っている私と早苗さんは困惑した声を上げて答えた。