103話 泉の不安
「あなたに一つだけ聞きたいことがあるの。答えてくれたら協力するか考えてあげる」
「……」
「……」
「うん、ここであなたが本音を話さなかったら私は協力してあげなかったかもね」
*
「まさか、彩どのから拙者に会いたいと話が来るとは思いませんでしたぞ」
私は、ワビちゃんとのお話とのあと、こちらの状況を伝えるために田所君を呼んでいた。
「私は泉さんのやり方というか何もしないという姿勢には賛同できない。でも、だからといって仲間なのに知っていることを伝えないのも違うとも思う」
私がそう言うと、田所くんは一瞬何かをこらえるように言葉をつまらせたあと、口を開いた。
「ぜひ、聞かせてもらいたいですぞ! 拙者、こうやって仲間が分断されるのがすごく辛かったのですが、こうやってまだ関わり合いが持てると少し安心できます」
田所くんの本音の一端を聞けて私も安心して話ができた。
「ワビちゃんの協力が取り付けられた。私に頼みたいことがあればなんでも協力するって泉さんに伝えてもらえるかしら?」
私がそう言うと、田所くんは驚いたような表情を浮かべて声をあげた。
「本当ですか!? 拙者、てっきりかのVTuberもスグルどのの失踪に関わっていると思っておりました!」
田所くんの言葉に私は続けた。
「ええ、彼女も主体的かは置いておいて、確実に関わっていたわ」
「それで、スグル殿は一体なぜメタガラスを脱退したのですか」
その言葉に私は呆れかえるようなその訳を話した。
「私と、メタガラスを守るためらしいわ」
そのスグルらしい訳に私は理由を聞いた時の呆れたようなため息を思い出す。
「泉さんが失踪した時に理由も言わずにいなくなるなって言ってたくせに自分が全く同じことをするなんて、ホント似たもの同士だよね」
私がそう言うと、田所くんは笑みを浮かべたあと、声を小さくして私に耳打ちしてきた。
「拙者、もう口止めは限界ですぞ。彩どの、泉どのを見損なわないで頂きたい。実は、泉どのはエイヴェリー殿とそのスキルを最大限に活かしながら、あのあと分かれてから情報を調べていたのです」
私は驚いて聞き返した。
「え? 泉さんは傑の動向には興味がなかったんじゃなかったの?」
「それが、拙者が翼さんと問い詰めてみると、一通のメールを見せてきたのです」
田所くんはそう言うと、珍しくニヤニヤと笑いながら言う。
『姉さん、田所、この【今はメタガラスにいることはできない。Vセカイに移籍することにしたから辞めさせてもらいたい。】っていう文面は、まだ僕たちのもとへ戻ってくる意思があるってことかい?』
田所くんはそう、泉さんの似てもいないものまねをすると続けた。
「拙者と翼どのがニヤニヤしてそういうことだねと答えると、泉どのは水を得た魚かのようにパソコンの画面に向かい始めたのですぞ」
「全く、本当は一番不安だったってことかしら」
人付き合いの経験が少なくて、傑の真意を掴みかねていた泉さんのことを思って私はそう言った。
「全く、あんな分かりにくい、そっけない態度なんて取るから、私や大塚ちゃんまで勘違いしちゃったじゃないの」
私がそう言うと、田所くんは豪快に笑いながら言う。
「全くその通りでありますな!」
「これで、メタガラスの分裂も元通りになりそうね」
私がそう言うと、田所くんは再び、声を潜めて言う。
「それが、泉どのが傑どのの動向を調べていることに関しては、大塚ちゃんと梓どのには秘密にしておいてほしいのです」
「え?」
私が困惑して聞き返すと、田所くんは答えた。
「実は傑どのの居場所もすでに突き止めているのですが、仮に居場所を彼女たちが知ったら確実に……」
「突撃するわね……」
私は傑のもとへ突撃していく二人の様子が想像できて思わず苦笑いをうかべた。
「泉どのは相手のあらゆる対抗手段を塞いでから、傑を取り戻すつもりみたいなのです。ですから、協力者を得られたことはかなり目標に近づいたと言っても過言ではないでござる」
田所くんはそこで言葉を止めると続ける。
「早苗さんを呼んで、泉さんに会ってはもらえませんか?」
田所くんの言葉に私は頷いた。




