102話 震える手
「やっぱり、私は彩ちゃんの優しくお話を聞くあのスタイルというかあの才能を生かして接触するのが良いと思うっすよ」
具体的にワビちゃんに接触する方法として、早苗さんがそう意見を言ってきた。
「確かに! 彩ちゃんの言葉ってなんか不思議と色々喋っちゃう魔力を感じるんだよ!」
あずちゃんもそう言って早苗さんの意見に賛同してきた。
「でも、不自然じゃないか。いきなり話したいなんて言ったらさ。モブ顔が自分の意志で事務所を移籍したというのが考えにくい以上、状況的にかなり怪しい向こうの社長に情報が筒抜けになるリスクもあるだろ」
大塚ちゃんの言う通りだった。仮にワビちゃんの中の子がスグルの移籍に主体的に関わっているとすればこちらの行動を予測するのを容易にするリスクがあった。
だけど、私はそれでも直接話しを聞く価値があると思っている。
「私は、」
私がそう切り出すと、場のみんなは真剣そうな顔つきになると続きを促した。
「私は、それでも直接話しを聞くべきだと思うわ。すごく感情論になっちゃうんだけど、ワビちゃんの今までの配信を見ていると、ワビちゃんの中の人は人の痛みがしっかりと分かる子だと思う」
私はそう言ってみんなの反応を待った。
「私は、彩ちゃんの決断を尊重するっすよ」
早苗さんの言葉にあずちゃんも大塚ちゃんも頷いた。
「私も!」
「私も彩を信じる」
二人の言葉に私はしっかりと頷いた。
「一つ決めなきゃいけないんだけれど、早苗さんたちも私とワビちゃんの通話に参加する?」
私がそう聞くと、早苗さんは首を振った。
「彩さんが一人で通話した方が良いと思うっすよ。自然な彩さんの言葉がワビちゃんの言葉を引き出す力を持っていると思うっすから」
早苗さんの言葉にあずちゃんと大塚ちゃんも首を縦に降った。
「分かった。私一人でワビちゃんと話をすることにするわ」
私はそう言ってから付け足すように言った。
「一つだけ頼んでもいいかしら?」
「もちろんっすよ」
胸をぽんと叩いてくれた早苗さんを頼もしく思いながら私はお願いを口に出した。
「ワビちゃんを誘うメッセージを送るところだけ見守ってくれないかしら」
私がそう言うと、早苗さんは私を落ち着かせるような優しげな笑みを浮かべると言う。
「そんな体を震わせながら頼まれたら断れるはずないっすよ」
早苗さんのその言葉に私は自分の手元を見てみた。自分でも気づかなかったが確かに手が震えていた。
ふと、私の手に温かいものはあたった。
「あずちゃん、大塚ちゃん……」
震える手をあずちゃんと大塚ちゃんが握ってくれていた。
「私たちは仲間だかんな」
大塚ちゃんの言葉に私はほろりとしてしまった。
「うん、一緒にメッセージを送ろう」
「ごめんね。情けないね。まだ話せるって決まったわけでもないのに」
まだ、アポも取ってない状態なのに私はすでにこんなに緊張してしまっていた。
「だめならだめになってから先のことを考えれば良いと思うっすよ」
「そうだよね。まだ、メッセージも送ってないのに色々考えすぎてた」
私はそう言うと、スマホを取り出して、メッセージを入力した。
「メッセージ送るね」
私の言葉にみんなはゆっくりと頷いた。




