100話 ヘタレ
「私、あの子と話してみようと思うの」
私は、自分の部屋に集まった大塚ちゃん、早苗さん、あずちゃんを前にしてそう言った。
「あの子って誰なんだよ」
大塚ちゃんが怪訝そうに言うので、たしかにあの子では分からないと思って言い直す。
「ワビちゃんよ」
「あの、クソッタレの事務所のVTuberかよ」
大塚ちゃんが口の悪い言葉でそう言うので私は思わず苦笑いを浮かべると、まあまあとたしなめた。
「やっぱり、圧倒的に情報が不足してると思うの、直接コンタクトを取って事情を確かめたいわ」
私がそう言うと、大塚ちゃんも渋々といった風に頷いた。
「だけどさ、メタガラスを辞めるの突然すぎるよな。あんなにうまくいってたのにさ」
大塚ちゃんがそうぼやくと、私は隠し事をするべきではないという思いが頭の中に浮かんできて、口を開いた。
「あのさ、みんなにはまだ言っていなかったんだけど、ひとつだけ心当たりのあることがあるの」
私がそう言うと、みんなが驚いたように私の方へと膝を向けた。
「それで、それはどういったことっすか?」
早苗さんの丁寧で急かさないような口調に私は努めて落ち着くように呼吸を整えると言った。
「傑に告白されて、お断りしたの……」
私がそう言葉に出すと、早苗さんが思わずといった風に声を荒らげた。
「それっすよ! 原因!」
その言葉に私はなんとも居た堪れない気持ちになると、
「そうですかね?」
小さくそう聞き返した。
*
「いや、まあ、原因がそれと言ったのは言い過ぎかもしれないっすけど、絶対何かしらに関わっている出来事だとは思うっすよ」
早苗さんがそう訂正するも場の雰囲気は何となくそれが原因なんじゃないかなあとかいう方向へと向いていた。
「でも、お兄ちゃん告白したっていう日もそんな素振り全然なかったのに、突然メタガラスは辞めちゃうし、家からは出てっちゃうし、もう全然分かんないよう」
あずちゃんがそういう通り、私への告白のから、傑の失踪までには若干のタイムラグがあるのだ。それに。
「傑は、告白に失敗して、私から逃げることはあっても絶対に仲間を裏切るような真似をする男の子じゃないもの」
私がそうつぶやくと、早苗さんは若干悪びれるような笑みを浮かべるとうなずいた。
「そうっすよね。傑くんはヘタレでもそういう男じゃないっすよね」
「お兄ちゃんはヘタレでも悪い男じゃないもん!」
私の言葉に早苗さんとあずちゃんがそう追従すると、なんとも言えぬような表情の大塚ちゃんが言った。
「あんまり、ヘタレとか言うと可哀想じゃないか。モブ顔もやっぱり色々といいところもあるじゃんな」
いいところについて言及していない闇については触れずに私たちは小さく笑みを浮かべると、VTuberワビちゃんに接触するための方法について模索し始めた。