2 セリス
「がはは!まったく幸運だったな!」
ギルドの治療室で包帯を巻かれたヘルムスさんが豪快に笑う。
あの後すぐに、気を失った二人を転移石で連れギルドまで運んだ。たまたま通りかかった別の冒険者に助けてもらったことにして、僕がと言うより、この剣が倒したことは伏せている。
これは、僕の意見じゃないけど……
『なんだよ』
「本当に良かったよ。」
「あの遺跡がダンジョンだったって、報告だけで上々な上に色んな手当てがギルドから貰えちまった。心配することはねぇぜ。その通りすがりの冒険者ってやつにも挨拶したいが顔見えなかったんだよな?」
「うん、良く見えなかったんだ」
あの後剣もどこかへ消えてしまった。だからこそこんなことが言えるんだけど。
「まったく、少しは反省しなさい。本当にごめんね……私たちがもう少し……」
隣にいたマナイさんが本当に悲しそうな顔で僕に謝ってくる。
違う、あの状況なら彼女らは簡単に陣の外へと出る事が出来た。だが、あえて僕を守る態勢をとったんだ。
「それは、」
「はは、そうだな、本当にすまなかった……」
僕よりも先にヘルムスさんが表情を崩した。
「俺たちの仕事はこんなのは序の口だ、だから心配すんなよ。来週には治ってるさ。」
「でも……」
「しっかし、こんな体じゃ稽古つけらんねーな!だからよ、知り合いの稽古場に話付けておいたからよ。行ってきな!」
『……』
僕の言葉にかぶせるように話を持ってくる。
「大きい所だからすぐにわかると思うぜ!」
「う、うん、ありがとう」
シノは半ば押され気味に部屋を後にする。
「あいつ……独り言増えたか?」
ヘルムスはそんなシノの背中をみて呟くのだった。
■
「二人は僕に謝ってきたけど冒険者とし行動できないのはつらいと思うよ」
『考えすぎだろ、あいつらはかなり幸運だぞ』
本当にそうなんだろうか、少なくともこの気持ちは忘れてはいけない気がする。
それよりもこの少女はいつまで付いてくるのだろうか。
『おい、何度も言っただろ。私は剣だ。お前が所有者のな。』
「……」
『お前今、変な魔物だったらとか思っただろ。私には筒抜けなんだよ。』
「それは、思うだろ……ダンジョンから出てきたんだし。」
ただ実際、剣のおかげで助かっているし今のところ害すら感じない。それも本当に彼女が剣に付いた存在ならの話だが。
『剣に付いたんじゃない私自身が剣なんだ。』
「じゃあ、魔道具?」
『そんなもんだ、違うのは所有者を限定するのと生物に近いってところだな。』
「ふーん……」
それに彼女の姿も声も僕にしか聞こえていない。僕自身がおかしくなってしまったのだろうか。
『お前、あんまり信じてないな?』
「うん」
『まあいい、それよりここら辺なんじゃないか』
彼女が指をさす方に大きな建物が見える。
石のタイルが敷き詰められた受付を通る。
「あのー、紹介できたんですけど」
「おう、お前がシノか」
受け付けにいる獣人の女性が反応してくれた。
服の外からでも分かるくらい引き締まった筋肉だ。
『おい、こいつは中々の達人だぞ』
「いや、多分この人と戦う訳じゃないと思うよ……」
あったとしても色々教えて貰えるくらいだろう。
「あはは、アタシの手合わせはちょっと早いかもな!」
彼女の答えに声が出ていてしまったのか、受付の人は僕を見て笑う。
「あんた英雄を目指してるんだって?」
「そ、そうです」
どこまで知っているのだろうか……少し恥ずかしい。
「そう恥ずかしがるな、大きな夢を持つことは悪い事じゃない。」
『……』
「ただ、それだけでかい夢を持ってるんだ見失わないように、近しい……そうだな同年代の実力も知っておいた方が良い。」
そう言って受付の人が指をさす先には一心に素振りをする少女がいた。いまの話だと歳は近いのだろう。金髪に少しだけ赤色が入った髪を持っている。
「おーい!セリスこの子の相手をしてやってくれ!」
呼び止められた彼女は手を止めこちらに向かってくる。
「こいつはセリス、お前と同い年くらいだが騎士団から推薦状を貰うくらい腕が立つぞ。」
「は、はい宜しくお願いします。」
「おーう、頑張れよ。アタシはここで待ってるから終わったら来なよ。」
■
受付から訓練場に移動した。どこかおどおどとした彼女を見ると妹ができたみたいでなんだかうれしい。
なんで男の格好をしてるのか不思議だけど。
「改めて、私はセリス、あなたの名前は?」
「僕はシノ」
凄く可愛い娘ね。白髪に綺麗な空色の瞳。どこかのお嬢様とかかしら。男装してるしあり得そうね。
「ギルドランクはどれくらい?」
「ギルドランク?」
「Fランクのアイアン、ブロンズって始まって最高ランクでSのオリハンコンまであるんだけど……」
ま、まあ知らなくても無理ないか……
彼女が訓練用の剣を持ち構える。
「うーん、じゃあ始めましょうか。」
「よろしくお願いします!」
うわっ、剣の握り方も丸で素人じゃない……
かわいそうだけどすぐに終わらせちゃいましょうか。
「は!」
「うっ!」
一気に距離を詰めてつばぜり合いに持ち込む。
一瞬驚いてたみたいだけど、私の剣撃をうまく受け止めている。
「ここを右……さらに突き上げ……」
今度はシノの方から動きがあった。私の重心をずらすように剣の向きを変えてくる。
意外と攻め方は良いわね。
でも、中段ががら空き。これなら左から一発入れれば……
「そこから、左……」
「え?」
カチン、刃と刃が交わる音がする。
予想外の攻めに剣先が鈍ってしまう。
「そして、押し込み……」
「くっ!」
じりじりと剣を交えあう。しかし、さっきとは違い明らかに私が押されている。
おかしい、踏込みも浅いく力の籠ったものじゃない、動き方なんてまるで素人の癖に付いていくのがやっと。
それにさっきから繰り出される剣撃の方向、最善とは言えない……かといって姿勢を防御に降るわけでもなく、私が打ち込む隙が必ずある、これは……
まるで、私の力量を見ているかのよう、それも届きもしないような遥か高みから……!
「おう、セリスどうだった?」
あの子が帰るのを見届けたのか、受付にいたアシノが訓練場に来た。
「ま、負けました……」
「え?まじ?対人経験ないとか聞いたけどなー……」
一度も対人をしたことがない?
■
受付の人に一言言って建物を出た。
「あの子強かったね。」
『まあ、良い勉強になっただろ。』
同い年なのに僕の目標に一番近いところにいるんだ。
多分、この自称剣の少女に手伝ってもらわなければすぐに決着がついていた。
『それにしてもお前の動きは無茶苦茶だな、体の使い方はそれなりのくせに魔力も乗せられてないじゃないか。』
「そんなことないでしょ、これでも色んな人に教えて貰ったんだ。」
僕は今まで出会った冒険者に良く動きを教えて貰った。
『どのくらい』
「もう、五年以上になるかな、ヘルムスさんたちは3ヶ月くらいお世話になったよ。」
『バカな、そんなにやってれば魔法だか技の一つや二つ発動できるはずだぞ。』
「え、ほんと?」
こうして僕らはヘルムスさんたちのいるギルドに帰っていった。