ドイツ人の男
アルザスに、ドイツ人がいた。2メートルもあろうかというくらいの大男で、体つきはまるで岩のようだった。
そのドイツ人は、今まさに彼の人生のうちに行ったことのない大罪を犯そうとしていた。ドイツ人の前には、ひとりの男があった。それはフランス人だった。腹と腕から血を流し、地面には血が広がっていた。しかし、自由の旗のもとに死のうと覚悟を決めたフランス人には、ドイツ人は恐ろしくはなかった。
ドイツ人は罪を犯した。フランス人はそこに残された。傍には包帯を包んでいた紙があった。
やがてアルザスに、ひとりの男が旗を掲げた。フランス人であった。国を取り戻そうと、人々は奮闘した。
旗を掲げたフランス人は、路地の影にうずくまる大男を見つけた。ドイツ人であった。
ドイツ人はフランス人を見つめ、また、フランス人も照準器越しにドイツ人を見つめた。
ドイツ人は腹から血を流していたが、まだ助かる見込みがあった。
フランス人は既に多くの大罪を犯してきた。ドイツ人も、今日においてまた同様だった。
もはやフランス人は照準器を見なかった。
ドイツ人は残された。その傍には、包帯を包んでいた白い布が落ちていた。
アルザスに、2人の男がいた。
片方はドイツ人で、もう片方はフランス人だった。
フランス人はワインを持っていた。ドイツ人もまた、ビールを持っていた。
2人はもう、血を流してはいない。