お礼
いざ実践してみるとプラモデル作りは予想以上に時間を要した。
とにかくパーツとやるべき工程が多いのなんの。
器用さに自信を持っている僕ですら4時間ほどかけてようやく組み立てる事が出来た。
どうやら調べてみると本格的に作る人は一か月以上費やすらしいそうで。
さすがにそこまでは出来そうにない。
そして翌日、頼まれた子に包装しておいた完成品を渡す。
おさげ髪の谷本さんは目を輝かせながら僕とプラモデルを交互に見ていた。
「ありがとう!プレゼントこれで渡せるよ!」
「なら良かった。姉さんもきっと喜ぶよ」
何でも彼女は誕生日プレゼントとしてお父さんの好きなアニメの模型をあげよう。
と思い買ったまではいいが……
最初から完成品が入ってないとは思わず、作ろうにも身近に頼れそうな人はいない。
悩んだ末にダメもとで僕の元に来たようだ。
「にしても金本君のお姉さん本当に凄いんだね。何でもできるじゃん!天才だよ」
その言葉に顔を赤くしてしまう。
姉への誉め言葉は即ち僕に向けられているのと同義だ。
動揺を悟られないように微妙に顔を逸らす。
あんまり照れすぎると不審に思われてしまうだろう。
……そして、まだ終わりじゃない。
僕はきちんと重大な補足情報を伝える。
「姉さんへは伝えておくとして……ありがとうは折鶴さんにも言っておいてくれないかな」
「折鶴さんって……あの折鶴さん?」
強く頷く。
「うん。あの人も話を聞きつけて一緒に作業を手伝ってくれたんだ」
「え!?どうして?」
信じられないと言った顔で谷本さんは窓際の席で一人本を読む折鶴さんを見つめる。
「折鶴さんが……何で私なんかの頼みごとを?」
やっぱり、普通の生徒にとってお嬢様である彼女は雲の上の存在らしい。
谷本さんの言い方からはそんな印象が伺えた。
肩をすくめつつ説明を続ける。
「折鶴さんも凄い器用で…あの人が居なかったらもっと時間がかかってたと思うよ」
全く嘘じゃない。
一日で完成させることが出来た功績のほとんどは、折鶴さんの元にあると言っていいだろう。
まずは道具。
彼女が用意してくれたニッパーやデザインナイフは驚く程手に馴染んだ。
素早く作業に取り掛かれたのはこれのお陰と言っていいだろう。
そして何より……折鶴さんの献身的なサポート。
メインを担う僕の裏で行われる素早く丁寧な補助は正に神業だった。
あまりの手慣れっぷりに本当に初めて?と聞いてみたら
「きっと、良太様に対する愛が私に力をくれたのだと思います」
とんでもない説明をさらっと語られた。
実際は幼い頃からの習い事の数々で根本の器用さが培われてきたんだと思う。
谷本さんは納得したように俯いて、僕の方へと再び向き直る。
「分かった。折鶴さんにも感謝しておくね」
「ありがとう。じゃあ僕はこれで」
「あ、ちょっと待って!」
頃合いを見て離れようかと思った瞬間、僕の肩ががしっと掴まれる。
何事かと思い慌てて振り返る。
まだ頼み事があったりするのだろうか。
「これ……一応お礼として受け取ってくれないかな?」
むしろ逆だった。
彼女が差し出して来たのは二枚のチケット。
紙上には端正な顔立ちをした男女が写っていた。
更にタイトルと共に『特別試写会ご招待券』と書かれている。
これ……まさか……
「映画のチケット?」
「父さんが仕事のツテでよくこういうの貰ってくるんだけど……私恋愛ものあんま見ないの」
「くれるってこと?」
「うん。今度の休みだし良かったらお姉さんと二人で楽しんできて」
と言い残して谷本さんは折鶴さんの席へと向かっていくのだった。