折鶴さんは闇が深い
しかし言い訳をした以上は断る事も出来ない。
こうして放課後は折鶴さんのお屋敷にお邪魔することになったのだった。
どんな家なんだろう……やっぱり名家というだけあって壮大なものだというのは確かだろう。
貧相な想像力しかない僕でも、さすがに今までの常識じゃ測れない世界がそこにはあると予想できた。
そして実際にその予想が裏切られることは無く……
校門前で待つ折鶴さんの迎えの車に乗せられて20分ほどで目的地に着いた。
「という訳で、これが我が家です」
「何……これ?」
目の前に広がるのは、正に創作や世界史の教科書でしか見ない様なお城。
門から入口にたどり着くまでの敷地内だけでも数十メートルは優に超えるだろう。
ここまで来ると広すぎて逆に移動面は不便と感じてしまうんじゃないんだろうか。
そんな長い道の周りは鮮やかな色とりどりの花たちで囲われている。
極めて幻想的で、現実感がまるでなかった。
おとぎ話の世界に入り込んだような錯覚を受ける。
呆気に取られる僕を心配そうに見つめながら、折鶴さんは屋敷の入り口を指差す。
「大丈夫ですか?ほら、中へどうぞ」
「…お、お邪魔します」
何とかその一言を口から出す。
理解が追い付かないながらも最低限の礼儀は忘れずにいられた。
おぼつかない足取りで門をくぐり抜けていく。
屋敷内に入っても驚きの連続だ。
玄関ホールに入るなり一斉に使用人さん達に頭を下げられる。
つられて僕も一礼してしまった。
壁に貼られている数々の美しい絵画。
神を模したような威厳を感じさせる巨大な彫刻。
廊下一つを切り取っても美術館の様だ。
どれだけ歩いてもついつい周りの物に目を奪われてしまう。
折鶴さんが先導してくれていなかったら、きっと迷子になっていたんじゃないだろうか。
そんな圧倒されっぱなしの僕がようやく落ち着けたのは彼女の部屋に入った時だ。
「あ、あれは……」
桃色のキングサイズのベッドの上に居たのは一月ほど前に会った事のある彼。
折鶴さんは嬉しそうに彼を抱きかかえて僕に見せつけてくる。
「ほらルシファー、良太様に挨拶しようね」
そう、以前僕が腕を直したクマのぬいぐるみだ。
折鶴さんに惚れられてしまった原因……と思うと複雑な感情が胸に残る。
とは言え見慣れない景色が続いた中でのルシファーの姿は僕の心に安寧を取り戻させてくれた。
それにしても、『挨拶しようね』か。
ぬいぐるみを弟みたいに扱う人が居ると聞いたけど、折鶴さんもそのタイプだったみたいだ。
少し話を聞いてみよう。
「折鶴さん本当にクマちゃ……えっと、ルシファーが好きなんだね」
「はい!小さい頃からの唯一のお友達ですから!」
にっこりと笑う彼女だが、僕の耳にはとある単語が引っ掛かっていた。
「……ん?唯一のお友達?」
「私、小さい頃からずっと一人ぼっちだったので……遊び相手がルシファーしか居なかったんです」
「へ、へーそうなんだ」
「女の子同士だからすっごく話も合うんですよ!そうだよね~」
折鶴さんは物思いにふけりながらあやすような口調でルシファーに語り掛ける。
当然ルシファーからの返事は無い。
僕はこれ以上の話の掘り下げはやめようと思った。絶対闇深い奴だもん。
よくよく考えてみると確かに折鶴さんは学校内であまり人と関わってはいなかった。
周り的には身分差を考えると話しかけにくいって言うのがあるんだろうけど……
成程、だから折鶴さんはこんなにもお礼に拘っていたのか。
僕にとってはただのぬいぐるみでも、彼女にとってはたった一人の掛け替えのない親友なんだ。
ていうか……ルシファー女の子だったんだね。
よし、ぬいぐるみの話はさておき本題に入ろう。
そう思い立った僕は鞄からプラモデルの入った箱を取り出す。
「じゃあ早速始めようか」
「はい!初めての夫婦での共同作業ですね!」
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